重大事件に関する不起訴を目指した示談交渉について弁護士が解説
被害者がいる刑事事件で、不起訴を目指す際に一度は検討する弁護活動が、示談交渉です。初犯の盗撮事件や痴漢事件で、被害者と示談をした結果、不起訴処分になったと説明しているサイトや解説を目にされた方も多いのではないでしょうか。
しかし、被疑者に前科前歴があったり、複数余罪にわたる重大な事件であると評価されたりしている場合には、別の考慮が働き、示談をしても不起訴にしてもらえない可能性があります。
本稿では、弁護士原田の経験をもとに、依頼者の方が、不同意わいせつ罪やわいせつ致傷罪が複数人にわたって行ったと疑われて逮捕されたという仮想事例をもとに、重大な性犯罪事件の示談交渉の注意点や弁護活動を、解説いたします。
1.不同意わいせつ罪・不同意わいせつ致傷罪について
不同意わいせつ罪は、相手の同意しない意思を形成・表明・実現することが困難にさせて、相手にわいせつな行為をすると成立する犯罪です(刑法176条1項)。
不同意わいせつ罪は、6か月以上10年以下の拘禁刑とされており、法定刑に罰金刑がまず存在しないため、不同意わいせつ罪相当の事件は、起訴されれば正式裁判となる重大事件です。
また、わいせつ行為やその未遂罪を犯し、それによって人を死傷させた者は、無期または3年以上の拘禁刑になると規定されています(刑法181条)。いわゆる不同意わいせつ致死傷罪を定めた規定ですが、単なる不同意わいせつ罪より一層厳しい処分を想定していることがお分かり頂けるかと思います。
さらに、不同意わいせつ致傷罪として起訴されると、いわゆる裁判員裁判となって、陪審員が審理に参加して裁判が開かれることになります。
仮想事案は、不同意わいせつと不同意わいせつ致傷罪にあたりうる複数の事件を疑われており、初犯とはいえ重大事件であるため、依頼者が逮捕されてしまったというケースを想定します。
2.なぜ示談をしても検事が起訴を行うのか
逮捕されて、勾留が決定されると、そこから延長も含めて、最大20日間、被疑者は身体拘束をされることになります。依頼者が被疑事実を認め、あるいは一部だけしか否認していないような事件であれば、通常弁護人は示談ができないかを検討します。そして、この身体拘束期間中に示談交渉を行って結果を検察庁に提出することで、不起訴処分にしてもらえないか、検事に交渉します。
示談というのは、その事件が起訴されないよう、合意書などで被害者の方に協力の弁をもらったうえで、慰謝の措置を行うことです。
しかしながら、示談を成立させ、検事にこれを報告したとしても、検事が事件を起訴するようなこともあります。その理由には、事案ごとに色々な事情が考えられますが、例えば仮想事例のような複数重大事件ですと、次のような理由が考えられます。
① 事件の重大性
起訴して裁判を受けさせるのが相当であると検察庁が考えるような重大事件では、示談しても起訴されてしまう可能性は残ります。例えば、仮想ケースでは、わいせつ行為を受けた可能性のある被害者が複数人おり、1件ならともかく、常習性もありえるため、刑事施設に収容したほうが良いと判断される可能性があります。
② 被害者の協力
起訴が望ましいと評価される事件でも、裁判にならないように被害者が協力するような形で示談が成立している手前、検事も、被害者の意思を確認して、裁判への協力を約束してもらわないことには、起訴に踏み込むことが難しいケースも多いです。
特に、仮想事例のような性犯罪は、公開の法廷で、被害者が受けた被害の内容が、証拠調べや尋問の中で出てきてしまうおそれもあります。そのような意味で、公開裁判が一種のセカンドレイプにならないかという議論も昨今されており、検察庁にも、示談が成立した事件を起訴するかしないか、慎重な判断が求められます。
3.検察官の判断過程を見通した示談交渉を行うことが求められます
仮想事例のような複数件の不同意わいせつ・不動わいせつ致傷事件について有効な弁護活動を行うためには、以上のような検事側の判断要素を当方が想定したうえで、検事から起訴されにくい形で合意を受けていただけないか、被害者に方としっかりお話をして交渉に臨むことが求められます。
不起訴へのご協力を強くお願いする趣旨で謝罪金を用意することはもちろんですが、不起訴の判断を左右するといわれる宥恕文言(ゆうじょもんごん)だけでなく、今後の裁判手続や見通しを被害者の方に懇切丁寧にご説明することで、裁判まではしないという合意や共通認識まで形成できるか、検討する必要も出てきます。
4.被害者の方への詳しい説明が被害者利益を守ることもある
最大20日間という極めて短い時間の中で行う交渉であるため、時間的な限界もありますし、最終的には被害者の方のご意思次第というところもございます。しかし、詳しい裁判手続きや流れの事情などを省略したりごまかしたりするのではなく、弁護人からも丁寧に説明することは、被害者の不安に応えることにもつながります。
当職が担当した不同意わいせつ等の被疑事件で、被害者の方が、検事から「裁判に協力してほしい」という抽象的な説明しかうけていなかったケースがあります。そのケースでは、裁判ではどのような審理がされるか、実際に協力するとなると、どのようなことをする必要が出てくる可能性があるか、また手続がどれくらい続くかなど、私のほうから詳しく説明しました。被害者の方は、そうした説明の趣旨を汲んで、通常よりも踏み込んだ形で示談の合意をしてくださり、結果として不起訴処分となりました。
5.仮に起訴されたとしても執行猶予を獲得するために
示談交渉を尽くしたにもかかわらず起訴されてしまったとしても、その交渉に一定の結果が出ていれば、公判の中でその事情は考慮されるため、執行猶予付き判決を受ける道が開かれます。初犯であっても、複数の不同意わいせつ罪が起訴されれば、実刑判決を受ける可能性も十分でてきます。
たとえ勾留満期までに示談交渉が実らなかったとしても、被害者の方には引き続き、謝罪金のご受領や事件解決へのご協力をお願いし続けることで、全体として、執行猶予となる可能性が高まります。
6.まずはご相談下さい
重大な性被害が生じた事件が複数件に重なると、示談をしても起訴されてしまう可能性は十分ありますが、そういった状況の中でも、早急な弁護活動を行うことが重要です。まずは経験のある弁護士に相談することをお勧め致します。
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