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判例 - セクハラに対する出勤停止及び降格の懲戒処分の有効性-

判例 セクハラに対する出勤停止及び降格の懲戒処分の有効性

「最高裁判所平成27年2月26日判決 民集249号109頁」(海遊館事件)

第1 はじめに

 今回は、いわゆるセクハラに対して下された出勤停止という懲戒処分の有効性についての判断を示した裁判例をご紹介させていただきます。
 出勤停止や降格は一般的には「懲戒解雇」に次ぐ重い懲戒処分です。企業側がこのように重い懲戒処分を下すにあたって、当該従業員に対して警告や注意などの措置を講じなかった点をどう考えるかが主な争点となりました。
 結論として、最高裁判所は、出勤停止及び降格の懲戒処分は有効であると判断しています。
 懲戒処分の有効性については事件ごとに細かい事実関係の検討が必須ですが、本裁判例を一つの基準としてご参考にしていただけると幸いです。

 

第2 事案の概要

 管理職に就く従業員Xら(原告、控訴人、被上告人)が、Y社(被告、被控訴人、上告人)から、社内でのセクハラを理由に出勤停止(それぞれ30日と10日)及び降格の懲戒処分を受けた。
 Xらは、Y社に対して、当該懲戒処分は無効だとして、懲戒処分無効確認を請求する訴訟を提起した。
 なお、セクハラを受けた女性従業員Aは退社を余儀なくされている。
 Xらは、Aに対して、1年以上に渡り、下記のような発言を繰り返していた。
 ・「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」
 ・「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」
 ・(館内の女性客を指して)「今日のお母さんよかったわ…。」「かがんで中見えたんでラッキー。」

  「好みの人がいたなあ。」
 ・「いくつになったん、もうそんな年になった。結婚もせんでこんなところで何してんの。親泣くで。」

 

第3 下級審の判断

 1 大阪地方裁判所の判断

   原告Xらの請求を棄却する。
   出勤停止及び降格の懲戒処分は有効である。

 

 2 大阪高等裁判所の判断

   控訴人Xらの請求を認容する。

   出勤停止及び降格の懲戒処分は無効である。

 

第4 最高裁判所の判断(確定判決)

 1 結論

   出勤停止及び降格の懲戒処分は有効である。

 

 2 判旨の要約抜粋

    ⑴ 同一部署内において勤務していたAらに対し、Xらが職場において1年余にわたり繰り返した発言等の内容

      は、いずれもAらに対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感を与えるもので、職場における女性従業員に対す

      る言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当

      該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を将来するものである。

 

    ⑵ Y社では、職場におけるセクハラの防止を重要課題を位置づけ、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員ら

      に周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止

      のために種々の取り組みを行っていた。

 

    ⑶ Aは、Xらのこのような行為が一因となって退社を余儀なくされている。

 

    ⑷ 高等裁判所は、XらがAから明白な拒否の姿勢を示されておらず本件各行為のような言動も同人から許されて

      いると誤信していたなどとして、これをXらに有利に考慮している。しかし、職場におけるセクハラ行為につ

      いては、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念し

      て、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少

      なくないと考えられるため、高等裁判所のいうような考慮はすべきでない。

 

    ⑸ 高等裁判所は、Xらが懲戒処分を受ける前にセクハラに対する懲戒に関するY社の具体的方針を認識する機会

      がなく、事前にY社から警告や注意等を受けていなかったなどとして、これらをXらに有利に考慮している。

      しかし、Y社では上記⑵のような取組を行っていたことからXらとしてはY社の取組や方針を当然に認識すべ

      きであったし、Xらの行為は第三者のいない場所で行われていたことからそれをY社が認識して警告などする

      機会がなかったため、高等裁判所のいうような考慮はすべきでない。

以上

 

(平成31年1月9日発行 文責:佐山洸二郎)

 

判例 - 求人票記載の労働条件が労働契約の内容と認められた事例

判例 求人票記載の労働条件が労働契約の内容と認められた事例

「京都地判平成29年3月30日労働判例1164号44頁」

第1 事案の概要

 Yは、障がい児童を対象とする児童デイサービスを営む会社である。

 Yは、「正社員、契約期間の定めなし、定年制なし」とする求人票をハローワークに提出し、当該求人票を閲覧したXは、Yの面接を受けた。面接の際、Xは、定年制の有無を質問したが、Y代表者は未定であると回答し、労働契約の期間の定めの有無や、労働契約の始期については、特にやり取りがなかった。この面接後、YはXに採用の通知をした。

 Xは平成26年3月1日に勤務を開始したが、Y代表者は、Xに対し、「1年間の有期雇用、65歳の定年制とする」旨の労働条件通知書を提示して説明した。

 Xは、すでに他を退職してYに就業した以上、これを拒否すると仕事が完全になくなり収入が絶たれると考え、特に内容に意を払わず、その裏面に署名押印した。その後、Xは、27年1月になって、有期労働契約であることや定年制とされていることを認識した。

 Yは、平成27年2月末日限りでXとYとの本件労働契約が終了したものとして取り扱った。

 Xは、Yに対し、雇用契約上の地位の確認と未払賃金の支払等を求めた。

 

第2 結論

 本件は、求人票記載の労働条件を内容とする労働契約が成立しているとしたうえで、採用後にXが署名した労働条件通知書記載の労働条件に変更可能かどうかを、Xの自由な意思に基づく同意があったかどうかを慎重に判断して、否定した事例である。

 

第3 裁判所の判断

(1)本判決は、「求人票は、求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は、当然に求人票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である」とした。

 そして、本件での採用過程について事実認定をし、本件の労働契約は、求人票記載の「契約期間の定めなし、定年制なし」として成立したと認めた。

(2)Y代表者が平成26年3月1日にXに対して労働条件通知書を提示し、その裏面にXが署名押印したことを新契約の成立と主張したことについては、本件労働契約の変更を主張する趣旨を含むと解されるとしたうえで、「当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきであり、その同意の有無については、当該行為を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である(山梨県民信用組合事件(最二小判平28.2.19労判1136号6頁)とした。

(3)そして、「期間の定め及び定年制のない労働契約を、1年の有期契約で、65歳を定年とする労働契約に変更することには、Xの不利益が重大であると認められる」と指摘し、本件の事情からは、「本件労働条件通知書にXが署名押印した行為は、その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないから、それによる労働条件の変更についてXの同意があったと認めることはできない」として、「XとYとの労働契約は、期間の定め及び定年制のないものであると認められ」、「本件労働契約は現在もなお継続している」とした。

 

(平成30年11月28日発行 文責:下田和宏)

 

判例 -日本郵便(期間雇用社員ら・雇止め)事件最高裁判決-

判決 日本郵便(期間雇用社員ら・雇止め)事件最高裁判決について

「最高裁判所平成30年9月14日判決」

 

第1 事案の概要

 本件は、日本郵便との間で期間の定めのある雇用契約を締結して就労し、その後雇止めされた者が、雇止めが解雇権濫用法理類推適用により無効であることと、当該雇止めが雇用継続に対する合理的期待を違法に侵害し、精神的損害を与えたとして不法行為損害賠償請求を求めた事案である。

 

第2 争点と結論

1 基本的な争点

 ① 旧公社の労働条件を引き継ぐといえるか(上限規定は不利益変更か)

 ② 期間雇用社員の期間更新に年齢による上限を設けることが適法となる要件

 ③ 本件の労働が雇止め時点において実質的に無期労働契約と同視し得る状態にあったか

 ④ 上限条項に基づく更新拒否は雇止めの問題か、別の契約終了事由か

 

2 結論

論点控訴審最高裁
×

本件上限条項の制定により,一定の年齢に達したことのみを理由に雇止めをされることはないという事実上の期待を失うにすぎず,被上告人が期間雇用社員について一定の年齢以降の契約更新を行わないこととすることには,必要性と合理性がある。

本件上限条項は,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に抵触せず,高齢再雇用社員との均衡も取れている。

さらに,各労働組合との間で本件上限条項と同内容の労働協約が締結されていること等を踏まえると,本件上限条項によって旧公社当時の労働条件を変更する合理性が認められる。

そして,本件規則を周知させる手続も実施されている。

本件上限条項は,期間雇用社員が屋外業務等に従事しており,高齢の期間雇用社員について契約更新を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ,高齢の期間雇用社員について,屋外業務等に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に,その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず,被上告人の事業規模等に照らしても,加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく,一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。

そして,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は,定年を定める場合には60歳を下回ることができないとした上で,65歳までの雇用を確保する措置を講ずべきことを事業主に義務付けているが(8条,9条1項),本件上限条項の内容は,同法に抵触するものではない。

本件規則が記載された冊子は,旧公社又は被上告人の各事業場の職員が自由に閲覧することができる状態で備え置かれていたというのであるから,本件規則については,本件上限条項を含め,その内容をその適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続がとられていたということができる。

×
×

 

 〔関連条文〕

  労働契約法7条

  労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者

  に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約

  において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する

  場合を除き、この限りでない。

  同法9条

  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業

  規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合

  等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労

  働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が

  就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除

  き、この限りでない。

  同法19条(当時は未施行)

  有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契

  約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使

  用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使

  用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

  一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契

    約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働

    者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると

    認められること。

  二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することに

    ついて合理的な理由があるものであると認められること。

 

第3 ポイント

1 非常勤公務員が民営化により有期労働契約によって引き続き雇用された場合、更新に対する合理的期待は公務員関係の

  時期を通算して考えるのが妥当か

 過去の裁判例では肯定例が多かった(広島高岡山支判平成23年2月17日労判1026号94頁など)。その方向に裁判官も肯定的であった(佐々木宗啓ほか『類型別労働関係訴訟の実務』299頁〔遠藤東路〕)。

 しかしながら、本件では、雇い主の法的性格・従業員の法的地位の差、非常勤職員について郵政民営化法の対象外とされ退職させられていることから、引き継ぎはないとしている。

 なお、最高裁も、全く従前の労働条件に配慮していないわけではなく「期間雇用社員の労働条件を定めるに当たり,旧公社当時における労働条件に配慮すべきであったとしても,被上告人は,本件上限条項の適用開始を3年6か月猶予することにより,旧公社当時から引き続き郵便関連業務に従事する期間雇用社員に対して相応の配慮をしたものとみることができる。」という形で言及している。

 

2 合理性の判断方法

 これは、控訴審は、不利益変更の形(11条)で審理し、最高裁は単なる就業規則の周知(7条)で審理していることから差があるようにも思えるが、実質的な審理内容・基準に大きな差はないと思われ、結局、(60歳以上であれば)年齢による上限を肯定する方向で判断している。

 

3 無期と同視できるかの判断

 最高裁は、「上告人らと被上告人との間の各有期労働契約は6回から9回更新されているが,上記のとおり,本件上限条項の定める労働条件が労働契約の内容になっており,上告人らは,本件各雇止めの時点において,いずれも満65歳に達していたのであるから,本件各有期労働契約は,更新されることなく期間満了によって終了することが予定されたものであったというべきである。これらの事情に照らせば,上告人らと被上告人との間の各有期労働契約は,本件各雇止めの時点において,実質的に無期労働契約と同視し得る状態にあったということはできない。」と判断しており、一番のポイントは、年齢の上限を意識できる状況だったのかということをどれほど重視するのかというところといえる。

 

4 雇止めと別の終了事由か

 これは、地裁・高裁は、雇止めとは別の法理を用いて、なんとか契約終了という結論を肯定しようとしていた。

 しかしながら、最高裁は、別の理屈を使うことに批判もあり(篠原信貴「判例批評」ジュリスト1492号227頁)、単に、現行の労働契約法19条1項本文の合理性相当性の処理で統一したものと思われる。

 

第4 まとめ

 本件は、地裁から一貫して、定年類似の雇止めをどのような理屈で肯定するかを考えたものであるといえる。

本件の最高裁判決は、公社の民営化という特殊事情はあるものの、非正規社員の定年近くの期間雇用において参考となる事例判断を示す重要なものであるといえ、とりわけ更新の上限の合理性の判断は、中小企業にとっても参考になるものといえる。

 

(平成30年9月26日発行 文責:杉浦智彦)

判例 -被用者の交通事故につき会社が損害の7割負担した事件-

判例 被用者の交通事故につき会社が損害の7割負担した事件

「佐賀地判平成27年9月11日労働判例1172号81頁」

第1 事案の概要

 本件は、Y社の被用者であるXが、Y社車両を運転し、駐車場で後退させる際、後方確認不十分で、停車中のA車両に衝突させ、Y社車両およびA車両の双方が損傷した物損交通事故(以下、「本件事故」)について、Xが、A車両の所有者に賠償金38万2299円を支払ったことから、同賠償額の支払い(求償)をY社に対して求めた事案(①本訴)と、Y社が、Xが起こした本件事故によりY社が所有する車両(以下、「Y社車両」)が損傷したと主張して、Xに対して修理代金として8万698円およびこれにかかる遅延損害金の支払いを求めた事案(②反訴)である。

 

第2 裁判所の判断

1 本訴について

「被用者がその事業の執行につき第三者に対して加害行為を行ったことにより被用者(民法709条)及び使用者(民法715条)が損害賠償責任を負担した場合、当該被用者の責任と使用者の責任とは不真正連帯責任の関係にある」とし、使用者が責任を負う理由としてはいわゆる報償責任から、「被用者がその事業の執行について他人に損害を与えた場合には、被用者及び使用の損害賠償債務については自ずと負担部分が存在することになり、一方が自己の負担部分を超えて相手方に損害を賠償したときは、その者は、自己の負担部分を超えた部分について他方に対し求償することができる」としたうえで、Xは九州地方でのエリアマネージャーとして雇用されており、(長野県に本拠を置く)Y社の事業拡大を担う立場として業務を行っていたこと、Xの業務は、九州地方における取引先の開拓や野菜の運搬などであり、その性質上、事故発生の危険性を内包する長距離の自動車運転を予定するものであったこと、Xは本件事故発生前後の平成25年4月および5月においても少なくとも8日間を除きY社の業務について稼働するなど業務量も少なくなかったこと、本件事故における過失内容も車両後退時の後方確認不十分であり、自動車運転に伴って通常予想される事故の範囲を超えるものではないこと等の事情を総合すると、「Y社とXの各負担部分は7対3と認めるのが相当であり、D工業に対し損害額全額の賠償をしたXは、その7割についてY社に対し求償することができる」とした。

 

2 反訴について

 事業の執行についてなされた被用者の加害行為によって、使用者が直接損害を被ったり、使用者としての損害賠償責任を負うことになった場合には、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができる」とする茨城石炭商事事件(最一小判昭51.7.8民集30巻7号689頁)の基準を引用して、「Y社がY社車両の損傷により直接被った損害のうちXに対し賠償を請求できる範囲は、信義則上、その損害額の3割を限度とするのが相当」とした。

 

(平成30年9月5日発行 文責:下田和宏)

 

判例 -給与約75%減の再雇用条件を提示することの適法性-

判例 給与約75%減の再雇用条件を提示することの適法性

「福岡高等裁判所平成29年9月7日判決(労判1167号49頁)」(九州惣菜事件)

 

はじめに

 今回は、従業員が定年を迎えた後、再雇用の際に給与を約75%減額する条件を提示することが適法かどうかという点についての判断を示した裁判例をご紹介させていただきます。

 結論として、福岡高等裁判所は、再雇用の際に給与を約75%減額する条件を提示することは違法であると判断しています。

 もちろん、このような条件の提示があらゆる場合に違法であると判断しているわけではなく、あくまで本裁判例の具体的事情(条件が提示された経緯や、交渉の内容等)を前提とした上での判断となっています。もっとも、経営者の方からすれば、定年と再雇用の話は避けて通れないものだと思います。その際の判断の一助としていただければ幸いです。

 それでは、裁判例をご紹介させていただきます。

 

第1 事案の概要

 従業員X(原告、控訴人)が、Y社(被告、被控訴人)に雇用され定年に達した。その後Y社がXを再雇用するにあたって給与を約75%減額する条件を提示したが、Xがそれを承諾しなかったため、両者の間で再雇用契約は交わされなかった。

 すると、Xが、Y社に対し、下記の請求をする訴訟を提起した。

 

1 主位的請求

  定年後もXとY社との間の雇用契約関係が存在し、その賃金について定年前賃金の8割とする黙示的合意が成立している。

 

2 予備的請求

  Y社が、再雇用条件として、著しく低廉な賃金の提示しか行わなかったことは、Xの再雇用の機会を侵害する不法行為を構成する。

 

第2 福岡地方裁判所小倉支部(第一審)の判断

1 主位的請求について

  棄却(黙示的合意は不成立)

 

2 予備的請求について

  棄却(不法行為は不成立)

 

第3 福岡高等裁判所の判断(確定判決)

1 結論

 ⑴ 主位的請求について

   棄却(黙示的合意は不成立)

 

 ⑵ 予備的請求について(第一審の判断を変更)

   Y社に不法行為が成立し、Xへの100万円の慰謝料支払義務がある

 

2 判旨の要約抜粋

  ⑴ 主位的請求について

    ア 具体的な労働条件を内容とする定年後の労働契約につき明示的な合意は成立していない。

      ∵ Xは定年後の再雇用を希望したが、Y社が提示した再雇用の労働条件を応諾していない。

        条件を応諾していない。

 

    イ 以下のように労働条件の根幹に関わる点について合意がなく、今後合意が成立する見込みがあると認めること

      も出来ない場合においては、黙示的な合意も成立していない。

      ∵ ① 就業規則は、基本給や職能給は、能力・技能・作業内容・学識・経験等を勘案して、各人ごとに決定

          する等としか定めておらず、これにより賃金等のXの労働条件が自ら定まることはない。

        ② 高年齢者雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度は、再雇用後の労働条件が定年前と同一であること

          を要求しているとは解されない。

        ③ Xがその労働条件の決定を、就業規則の範囲内であれ、人事権・労務指揮権を有するY社に全面的に

          委ねる意思を有していたと解することはできない。

        ④ 交渉経緯等に照らし、フルタイムかパートタイムか及び賃金の額を当事者の合理的意思解釈により決

          定することは困難。

 

  ⑵ 予備的請求について

    ※ 前提問題として、本判決は、XとY社との間で再雇用契約は交わされていないこと等から、労働契約法20条

      違反は否定している。

    ア 規範部分

      (a) 高年齢者雇用安定法9条1項2号に基づく継続雇用制度の下において、事業主が提示する労働条件の

          決定は、原則として事業主の合理的裁量に委ねられている。

      (b) 高年齢者雇用安定法の趣旨に反する事業主の行為、例えば、再雇用について、極めて不合理であっ

          て、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れがたいような労働条件を提示す

          る行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に反した違法性を有するものであり、事業主の負う高年齢者雇

          用確保措置を講じる義務の反射的効果として65歳まで安定的雇用を享受できるという法的保護に値

          する利益を侵害する不法行為となり得る。

      (c) そしてその判断基準について、高年齢者雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度は、高年齢者の65

          歳までの「安定した」雇用を確保するための措置の一つであり、「当該定年の引き上げ」(同1号)

          や「当該定年の定めの廃止」(同3号)に準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続

          性・連続性が一定程度確保されることが前提ないし原則である。

      (d) 例外的に、定年退職前のものと継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が

          継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要。

 

    イ 本件についての判断

      (a) まず、給料が約75%減額されるという労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一

           定程度確保するものとは到底いえない(※上記ア(c)の部分)。

      (b) そうすると、給料が約75%減額されるという労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるため

          には、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である(※上記ア(e)の部

          分)。

          しかし、本件ではそのような合理的な理由がない。

          すなわち、①再雇用条件の内容においてXの担当業務の量が大幅に減ったとはいえず、②Y社の店舗

          減少の実績はXの定年退職の前後を通じて1割弱にとどまっており、③Xの担当業務を限定すること

          に必然性はなく、④Xの再雇用においてXの担当する業務量をフルタイム稼働に見合う程度にしてお

          くことも可能だったのであり、⑤Xの賃金が年功序列的な賃金体系によって担当業務に比して高額に

          なっていたというのであればY社においてこれを予め是正するなどしてXに過大な期待を抱かせるこ

          とのないように何らかの方策を執ることが可能であり、また望ましかった。

      (c) したがって、Y社が、給料約75%減の労働条件の提案をしてそれに終始したことは、継続雇用制度

          の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したものであり、違法性があり、Xに対する不法行為が成立

          る。

          よって、Y社は、Xに対して、100万円の慰謝料の支払義務がある。

 

(平成30年8月7日発行 文責:佐山洸二郎)

判例 -手当型の固定残業代を有効とした最高裁判例について-

判例 手当型の固定残業代を有効とした最高裁判例について

「最高裁判所平成30年7月19日判決」

第1 事案の概要

薬剤師の残業代請求事件である。

一ヶ月当たりの平均所定労働時間は157.3時間であり、残業時間は、次のとおりであった。

 

 ・30時間以上が3回

 ・20時間代が10回

 ・20時間未満が2回

 

 <従業員に渡していた雇用契約書の賃金の定め>

  賃金月額 562,500円(残業手当含む)

 

 <この従業員の採用条件確認書の記載事項>

  ・月額給与 461,500

  ・業務手当 101,000 みなし時間外手当

  ・時間外勤務手当の取り扱い年収に見込み残業代を含む

  ・時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない

 

 <賃金規程>

  「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして、時間手当の代わりとして支給する。」

  との記載があった。

 

 <給与明細書表示>

  ・月額給与461,500 業務手当101,000円

  ・時間外労働時間や時給単価を記載する欄があったが、ほぼ全ての月において空欄

 

 <上告人・被上告人以外の各従業員との間で作成された確認書>

  ・業務手当月額として確定金額の記載があった

  ・「業務手当は、固定時間外労働賃金(時間外労働30時間分)として毎月支給します。一賃金計算期間における時間

    外労働がその時間に満たない場合であっても全額支給します。」との記載があった

 

 <労働時間管理方法>

  ・タイムカード利用

   ※出勤時刻と退勤時刻のみ打刻

   ※休憩時間に30分間業務に従事していたことがあったが、管理されていなかった

 

第2 原審

1 結論

 一部容認

 

2 理由

  いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは定額残業代を上回る

 金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生

 していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており,これらの仕組みが雇用主により

 誠実に実行されているほか,基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり,その他法定の時間外手当の不払や長時

 間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。

 ⇒ 業務手当の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことはできないから、これとは別に残業代を

   払わなければならない。

 

第3 最高裁判所の判断

1 結論

 破棄差戻し

 

2 理由

 <基準>

  雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る

  契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労

  働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。しかし,労働基準法37条や他の労働関

  係法令が,当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために,原審が判示するような事

  情が認められることを必須のものとしているとは解されない

 <基準のもと判断している事実>

  ・本件雇用契約に係る契約書及び採用条件確認書並びに上告人の賃金規程において,月々支払われる所定賃金のうち

   業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていた

  ・上告人と被上告人以外の各従業員との間で作成された確認書にも,業務手当が時間外労働に対する対価として支払

   われる旨が記載されていた

   ⇒賃金体系においては,業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置付けられていたと

    認定した。ー①

  ・被上告人に支払われた業務手当は,1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると,約28

   時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するもの

   ⇒実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではないと認定した。ー②

   以上①②から、被上告人に支払われた業務手当は,本件雇用契約において,時間外労働等に対する対価として支払わ

  れるものとされていたと認められると判断した。

 

3 解説

 (1)定額手当制をとった固定残業代の争点について

    固定残業代の内容として、具体的には、基本給とは別に支払われる定額手当の支給(定額手当制)と、月に支払わ

   れる賃金の中に、割増賃金の支払い方法として、通常賃金に対応する賃金と割増賃金を併せたものを含めて支払う方

   式の基本給組込みの支給(定額給制)がある。

    裁判例でよく問題となっていた「割増部分との区別ができるか」という明確区分性は、定額給制では争点となる

   が、そもそも分離している定額手当は、別の争われ方がなされていた。

    これまで、①手当の名称や支給条件から、割増賃金支払いの性質を有するか問題視する裁判例、②固定残業代で支

   払われなかった部分の清算合意や清算実態がない場合に有効性を否定する裁判例、③固定残業代の金額に対応する労

   働時間の多さを問題視し、その効力を否定する裁判例がみられた。(佐々木宗啓ほか編『類型別労働事件訴訟の実 

   務』(青林書院、2017)129頁〔佐々木宗啓〕)

   本件は、清算実態がないという争われ方という点で、基本的には②の事件に分類されるものである。

 

 (2)先例:アクティリンク事件(東京地判平成24年3月8日 労判1058号5頁)

    「このような他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには,①実質的に見て,当該手当が

   時間外労働の対価としての性格を有していること(条件①)は勿論,②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残

   業手当の額が労働者に明示され,定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途

   清算する旨の合意が存在するか,少なくともそうした取扱いが確立していること(条件②)が必要不可欠であるとい

   うべきである。」

 

 (3)先例に対する批判的見解

   (佐々木・前掲133頁以下・128頁以下、白石哲「固定残業代と割増賃金請求」労働関係訴訟の実務117頁)

   ・「清算合意があること」ないし「清算の実態があること」の要件については、議論があるところであるが、支給が

    合意された固定残業代の額を超えて時間外労働が行われた場合に、その超過分について割増賃金が別途支払われる

    べきことは、労基法上当然のことであり、「清算合意」ないし「清算の実態」を独立した要件と解する必要はない

    と解すべきであろう。

   ・「支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならない」とする見解

    が最高裁判決の補足意見として示されている。そこで、このような明示がなされていることが定額給制の固定残業

    代の合意の有効要件となるか問題となる。割増賃金の支払義務によって残業を抑制しようとする労基法37条の趣

    旨からすれば、同条の割増賃金が支払われているか検証できる程度に労働条件が明示されていることは必要とはい

    えるが、支給時ごとに支給対象となる時間外労働の時間数及び残業手当の額を明示することを要求する必要はな

    く、これを有効要件とする理由はないと考えられる。

 

 (4)原審の判断について

    原審は、これまでの裁判例の判断に沿って、以下の必要性から、基準を立てた。

 

    ・残業把握の取り扱いが確立している必要がある

     ⇒ 定額残業の対応時間の説明と、時間を把握する仕組みを要求

    ・長過ぎる定額残業時間は労働者の健康を害する

     ⇒ 固定残業代とのバランスを要求

 

    本件は、バランスは問題がないが、対応時間の説明等がないことから、「みなし」としての固定残業手当性を

   否定した。

 

 (5)最高裁の判断のポイント

    まず、最高裁は、残業代について、概要、以下のルールを述べている。

 

    ・時間外労働に対しては、その抑制及び労働者への保障のため割増賃金を払わないといけない

    ・割増賃金のルールは、「下回らない金額で割増賃金を払え」というものだけ。

     その他のルールは設定していない。

 

    そのため、そのほかの時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されているかなどの要件は

   要求しなかった。

    その一方で、今回の最高裁の判断では、「残業代の支払いとみなす合意が存在するか」という判断では

   なく、「会社が、その手当を残業代として支払っているか。」というシンプルな弁済の問題を判断している。

    最高裁は①契約書だけでなく、ほかの従業員を含めてどのような賃金の支払いをしているかということも含

   めて、会社側の支払い時の意思の認定をしつつ、②従業員の実際の残業時間を踏まえて、客観的に、それに対

   応する金額を渡しているから、残業代としての支払いの実態があるという解釈をしているものと考えられる。

 

第4 本判決を踏まえた今後の対応

 本判決は、固定残業手当の有効性について、従来の地方裁判所などで判断されていたよりも、広く捉えられることになった。

 しかしながら、結局、雇用契約書の内容などで、手当に対応する残業代の時間を明確しておかなければ危ないといえるし、さらに、実際の時間外労働時間も考慮要素となっていることから、結局は、実際の労務管理も、定額残業手当の有効性に影響するものといえる。

 そのため、手当の内容を明確にしておくことや労務管理の徹底が、リスク管理の上で重要であるといえる。

 

(平成30年7月25日発行 文責:杉浦智彦)

判例 -ベネッセ個人情報漏洩事件について-

判例 ベネッセ個人情報漏洩事件について

「最高裁判所平成29年10月23日判決」

第1 事案の概要

 未成年者Aの保護者が、ベネッセ側に対し、Aの氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所及び電話番号並びに保護者の氏名といった個人情報が外部に漏えいしたとして、損害賠償請求をした事案。

 なお、漏えいに係る個人情報については、ベネッセのシステム開発、運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であった者が、大量に持出し、複数の名簿業者に売却した。

 

第2 原審(大阪高等裁判所)の判断

1 結論

 請求棄却

 

2 理由

 本件漏えいによって、迷惑行為を受けているとか、財産的な損害を被ったなど、不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張、立証がされていない。

 

第3 最高裁判所の判断

1 結論

 破棄、差し戻し

 

2 理由

 本件個人情報は,上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照),上記事実関係によれば,本件漏えいによって,上告人は,そのプライバシーを侵害されたといえる。

 しかるに,原審は,上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく,不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。そうすると,原審の判断には,不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。

 

第4 関連訴訟(東京地判平成30年6月2日)

 上記最高裁判決後、東京地裁において、別の保護者らによる損害賠償請求事件の判決が出たが、同判決では、今回漏えいした氏名や住所、生年月日などの個人情報が、日常的に契約などの際に開示することが多い点を踏まえ、「自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくない私的領域の情報という性格は低い」「何らかの実害が生じたことはうかがわれない」「抽象的な不安感に止まる」などとし、ベネッセがおわびの文書と500円相当の金券配布したことなどを考慮し、「慰謝料が発生する程の精神的苦痛があると認めることはできない」として、請求を棄却した。

 

第5 過去の裁判例

 住所、氏名、電話番号等の個人情報漏えいに関し、過去の裁判例では1人あたり1万円の慰謝料と5000円の弁護士費用が認められた事例(京都付宇治事件(大阪高判平成13年12月25日判例集未登載))、1人あたり5000円の慰謝料と1000円の弁護士費用が認められた事例(Yahoo!BB事件(大阪地判平成18年5月19日判タ1230号227頁))がある。

 

(平成30年7月18日発行 文責:下田和宏)

判例 -従業員による刑事事件と解雇について-

判例 従業員による刑事事件と解雇について

「広島高等裁判所平成29年7月14日判決(労判1170号5頁)」

 

はじめに

 今回は、従業員が刑事事件を起こしてしまった場合に発生する、「会社としてはその従業員を解雇してしまって良いのか」という疑問点に関する裁判例を一つご紹介させていただきます。

この判例では、端的にいうと「懲戒解雇は出来ないが、普通解雇は出来る。」という結果となっております。

 もちろん、刑事事件の内容や、就業規則の定めによって結論は大きく変わりますので、一つの参考としてご覧いただければと思います。

 特に企業を経営している方からすれば、従業員が刑事事件を起こしてしまった場合の対応にあたっては、疑問点も多く出てくるかと思います。そのような際の一つの参考にしていただけると幸いです。

 それでは、裁判例の概要をご紹介させていただきます。

 

第1 事案の概要

 従業員X(原告、控訴人)が、Y社(被告、被控訴人)の代表者の息子が刑事事件を起こしたことを記載した文書を同代表者が本部長を務める本件協会に送信するという名誉棄損行為(以下「本件行為」という。)を行ったことにより、Y社を解雇になったため、Y社に対して、かかる解雇の無効を主張して、雇用契約上の地位確認等を求めた。

※ 本件協会は外部団体

※ 本件行為は不起訴処分となっている

 

第2 山口地方裁判所(第一審)の判断

懲戒解雇及び普通解雇は有効

 

第3 広島高等裁判所の判断(確定判決)

1 結論

 ⑴ 懲戒解雇は無効(山口地方裁判所の判断を変更)

 ⑵ 普通解雇は有効

 

2 判旨の要約抜粋

 ⑴ 懲戒解雇についての部分

   ア 本件懲戒解雇事由である「刑事上の罰に問われた」ときとは、起訴され、懲役、禁固、罰金等の刑罰に

     問われた場合を指す。

     本件行為は不起訴処分になっている。

     よって、Xによる本件行為は上記懲戒解雇事由にあたらない。

   イ 本件懲戒解雇事由である「会社の信用を著しく損なう行為のあった とき」とは、その行為により会社の

     信用が害され、実際に重大な損害が生じたか、少なくとも重大な損害が生じる蓋然性が高度であった場合を

     いう。

     Xによる本件行為はそこまでのものではなかったため、上記懲戒解雇事由にあたらない。

 ⑵ 普通解雇についての部分

   本件普通解雇事由の「会社に損害を与えた」には、会社の信用を毀損した場合も含まれる。

   Xによる本件行為は、Y社の信用を毀損する行為である。

   よって、Xによる本件行為は上記普通解雇事由に該当する。

   ※ 訴訟提起以前にはY社による普通解雇の意思表示はなかったが、山口地方裁判所での口頭弁論期日において

     普通解雇の意思表示がなされていた。

 

第4 〔参考〕本件行為にかかる文書の内容

C協会D県本部の各担当理事他,関係者,協会会員の皆様へ
 さる7月○日(火)のL新聞,E新聞,その他の報道により,株式会社Y社の役員である乙山三郎氏が詐欺罪により逮捕されたとの事実を知ることとなりました。同氏は御協会D県本部長である乙山次郎氏の息子とのことです。また,乙山次郎氏は同社の代表役員です。このような状況から乙山次郎氏が同協会において理事ましてや本部長などという役職に就いていることは好ましくないと思います。まずは御協会の自浄作用に期待して匿名にて意見させていただきます。適切な対応がなされない場合は然るべき時期に改めて正式に告発させて頂きます。御協会会員より

 

(平成30年6月27日発行 文責:佐山洸二郎)

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