判例 -従業員による刑事事件と解雇について-

「広島高等裁判所平成29年7月14日判決(労判1170号5頁)」

 

はじめに

 今回は、従業員が刑事事件を起こしてしまった場合に発生する、「会社としてはその従業員を解雇してしまって良いのか」という疑問点に関する裁判例を一つご紹介させていただきます。

この判例では、端的にいうと「懲戒解雇は出来ないが、普通解雇は出来る。」という結果となっております。

 もちろん、刑事事件の内容や、就業規則の定めによって結論は大きく変わりますので、一つの参考としてご覧いただければと思います。

 特に企業を経営している方からすれば、従業員が刑事事件を起こしてしまった場合の対応にあたっては、疑問点も多く出てくるかと思います。そのような際の一つの参考にしていただけると幸いです。

 それでは、裁判例の概要をご紹介させていただきます。

 

第1 事案の概要

 従業員X(原告、控訴人)が、Y社(被告、被控訴人)の代表者の息子が刑事事件を起こしたことを記載した文書を同代表者が本部長を務める本件協会に送信するという名誉棄損行為(以下「本件行為」という。)を行ったことにより、Y社を解雇になったため、Y社に対して、かかる解雇の無効を主張して、雇用契約上の地位確認等を求めた。

※ 本件協会は外部団体

※ 本件行為は不起訴処分となっている

 

第2 山口地方裁判所(第一審)の判断

懲戒解雇及び普通解雇は有効

 

第3 広島高等裁判所の判断(確定判決)

1 結論

 ⑴ 懲戒解雇は無効(山口地方裁判所の判断を変更)

 ⑵ 普通解雇は有効

 

2 判旨の要約抜粋

 ⑴ 懲戒解雇についての部分

   ア 本件懲戒解雇事由である「刑事上の罰に問われた」ときとは、起訴され、懲役、禁固、罰金等の刑罰に

     問われた場合を指す。

     本件行為は不起訴処分になっている。

     よって、Xによる本件行為は上記懲戒解雇事由にあたらない。

   イ 本件懲戒解雇事由である「会社の信用を著しく損なう行為のあった とき」とは、その行為により会社の

     信用が害され、実際に重大な損害が生じたか、少なくとも重大な損害が生じる蓋然性が高度であった場合を

     いう。

     Xによる本件行為はそこまでのものではなかったため、上記懲戒解雇事由にあたらない。

 ⑵ 普通解雇についての部分

   本件普通解雇事由の「会社に損害を与えた」には、会社の信用を毀損した場合も含まれる。

   Xによる本件行為は、Y社の信用を毀損する行為である。

   よって、Xによる本件行為は上記普通解雇事由に該当する。

   ※ 訴訟提起以前にはY社による普通解雇の意思表示はなかったが、山口地方裁判所での口頭弁論期日において

     普通解雇の意思表示がなされていた。

 

第4 〔参考〕本件行為にかかる文書の内容

C協会D県本部の各担当理事他,関係者,協会会員の皆様へ
 さる7月○日(火)のL新聞,E新聞,その他の報道により,株式会社Y社の役員である乙山三郎氏が詐欺罪により逮捕されたとの事実を知ることとなりました。同氏は御協会D県本部長である乙山次郎氏の息子とのことです。また,乙山次郎氏は同社の代表役員です。このような状況から乙山次郎氏が同協会において理事ましてや本部長などという役職に就いていることは好ましくないと思います。まずは御協会の自浄作用に期待して匿名にて意見させていただきます。適切な対応がなされない場合は然るべき時期に改めて正式に告発させて頂きます。御協会会員より

 

(平成30年6月27日発行 文責:佐山洸二郎)

弁護士にメールで相談

ご質問がある方は、ご遠慮なくメールで質問して下さい。 サイトに掲載するという条件の下、メール相談(無料)を受付けます。
メール相談はこちらのフォームに必要事項を記載し、送信してください。
メール相談への感謝の声をいただきました(いただいた感謝の声はこちら

お気軽にお問合せ、ご相談ください。0120-0572-05

上記フリーダイヤルにおかけいただいた際、まずは簡単にご相談内容をお伺いいたします。
その後、出来るだけ早めに弁護士から直接折返しのお電話(「045-680-0572」または弁護士携帯電話より)をさせていただきます。

なぜ弁護士選びが重要なのか、なぜ横浜パートナーは刑事事件に強いのか