カルロス・ゴーン前会長の逮捕事件について
目次
1.事件の概要
平成30年11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン氏が、自身の報酬を過少に申告した疑いがあるとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で、東京地検特捜部に逮捕されるという衝撃的なニュースがありました。
ゴーン氏は、フランスの大手自動車ルノーから派遣され、日産の経営危機の改善に努め再建を進めた、カリスマ的存在として認知されていましたので、事件について注目されています。
ゴーン氏は事件について否認していますので、最終的な結論が出るのは公判での審理を経てからになりますが、時間がかかることが予想されます。
今回は、連日報道されておりましたゴーン氏の身柄拘束について、逮捕・再逮捕が繰り返されたことや保釈されるに至るまでの経緯など、手続きの概要について解説していきます。
2.逮捕勾留は何度もできるの?
ゴーン氏は、平成30年11月19日に1度目の逮捕、12月10日に2度目の逮捕、12月21日に3度目の逮捕、平成31年4月4日に4度目の逮捕をされています。
同じ人に対して何度も逮捕が繰り返されているということについて、違法あるいは不当な行為なのではないか、という疑問を持たれた方もいるのではないでしょうか。
確かに、刑事訴訟法では、同一の事件について逮捕勾留は原則として1回しか許されないと考えられており、再逮捕や再勾留は原則として認められません。
しかし、これはあくまで「同一の事件」についてですので、例えば、同じ人が「複数の事件」に関与している場合には、その「事件ごと」に逮捕勾留を行うこともできると考えられています。
つまり、逮捕勾留の対象となっている事件が違えば、同じ人に対して逮捕勾留を繰り返すことも、理屈上は可能ということになります。
ゴーン氏についてみると、1度目の逮捕と2度目の逮捕は、自身の報酬を過少に申告した疑いがあるという金融証券取引法違反の容疑ですが、それぞれ申告した時期が異なりますので、「別の事件」ということになります。3度目と4度目の逮捕は、特別背任罪というあまり聞きなれない罪名ですが、3度目はゴーン氏の私的な損失を日産に付け替えて損害を与えたというもので、4度目は中東の日産の代理店の代表に不正に送金をしたというものですので、「別の事件」ということになります。
このように逮捕勾留を繰り返すことも、対象となる事件が違えば、直ちに違法ということにはなりません。
3.どうして何度も逮捕勾留をするの?
ゴーン氏に対する4度の逮捕が違法ではないとしても、どうして4度も逮捕する必要があるのか、という疑問が出てきます。
単的に結論を申し上げれば、捜査機関側とすれば、ゴーン氏の身柄拘束期間を延ばすことに意味があったと考えられます。
刑事訴訟法には、「逮捕は1~3日」、「勾留は原則10日(延長して最大20日)」という期間制限があります。この期間を超えた場合、検察庁は事件について「起訴」するか、起訴しないで容疑者の身柄を解放(「釈放」)するか、という選択をします。事件が起訴された場合には、「保釈」という制度がありますので、裁判所が保釈を認めれば、容疑者の身柄は解放されます。
つまり、勾留期間の満期時と起訴後の保釈時に身柄が解放されるチャンスがあるわけです。
ゴーン氏についてみてみると、12月10日に2度目の逮捕を受け、翌11日に勾留請求をされています。勾留は原則10日ですので、12月20日が満期ということになります。ここで検察側が勾留延長を求めたのですが、裁判所に却下されてしまいましたので、このままでは起訴しないで釈放するか、起訴したうえで保釈をされてしまう可能性があります。
そこで、翌21日に特別背任の疑いで3度目の逮捕をしています。この3度目のときは勾留延長も裁判所に認められましたので、12月23日から1月11日まで勾留されました。その後、特別背任罪についても追起訴されています。
起訴後は弁護人による3度の保釈請求により保釈が認めら、ゴーン氏は3月6日に保釈されます。保釈も必ず認められるものではなく、3度目にして、弁護人側が提示した保釈の条件により、罪証隠滅と逃亡のおそれがないと判断されたわけです。
ところが、ゴーン氏は4月4日に特別背任の疑いで4度目の逮捕となります。このときは4月22日まで勾留延長が認められましたが、その後、4月25日に再び保釈請求が認められました。
4.まとめ
以上のように逮捕勾留を事件ごとに考えると、理屈上は繰り返し行うことができ、その分身柄拘束期間も長くなりますので、「人質司法」などといわれており、批判の多いところでもあります。
ゴーン氏のように事件を否認している場合や複数の事件に関与している場合には、この身柄拘束期間が長期化する傾向にあるといえます。
長期化する身柄拘束に対しては、「(準)抗告」や「保釈申請」など専門的な知識を有する弁護人による適切な弁護活動が必須となりますので、早期に弁護士にご相談をされることをお勧めいたします。
(文責:下田和宏 令和元年6月10日)
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