元農水事務次官長男刺殺事件について

1.事件の概要と背景

 令和元年6月1日、元農林水産事務次官が、自宅で長男を刺殺。死因は首を切られたことによる失血死とみられ、刃物による刺し傷や切り傷は、上半身を中心に数十か所に上っていた。強い殺意が認められるが、その背景には家庭内暴力があったと思われる。
 長男は、十数年前から一人暮らしをしていたが、事件直前の5月下旬に実家に戻っていた。しかし、実家に戻った直後から、父である元事務次官や母に対して、殴る、ライターの火を押し付けるなど、壮絶な家庭内暴力を行っていたようで、両親は、自室に閉じこもることを余儀なくされていた。元事務次官は、自身や妻に、身の危険を感じるようになっていたところ、事件当日、長男が、自宅に隣接する小学校の運動会をみて、「運動会の音がうるさい。ぶっ殺すぞ。」などと言っているのをみて、危険を感じ、殺害を決意したとみられている。5月28日には、川崎市多摩区でスクールバスを待っていた小学生やその関係者などが無差別に殺傷された事件が発生しており、その加害者がいわゆる引きこもり状態であったことが頭をよぎったとも供述している。
 なお、元事務次官は、事件後、自ら110番した。(以上、各種報道による。)

 

2.今後の裁判手続きと量刑

 本件は殺人事件のため、裁判員裁判の対象事件である。元事務次官が自白していることなどからして、今後、勾留満期をもって起訴されると思われるが、起訴後は、裁判官、検察官、弁護人との間で、証拠の開示や、争点整理をしながら、手続きを進めていく。自白事件であっても、裁判まで半年程度かかることが一般的である。当然、どのような弁護活動を行うか、本件の争点については、これから決定されることになるが、各種報道を見る限り、事実関係を認めた上で、情状面を主張することになるだろう。家庭内暴力の内容によっては、心神耗弱なども主張する可能性があり、そうなれば、鑑定なども行われることが予想される。
 最終的な量刑については、事実関係が明らかになる必要があるが、そもそもの殺人罪の法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役である。自首、情状酌量、心神耗弱によって、2年半まで下げることができ、そうなると、執行猶予を付けることも可能となる。
 本件は、家庭内暴力があったこと、第三者への加害行為をほのめかしていたこと、自首していることなど、有利な事実も認められる可能性があり、少なくとも、死刑や無期懲役など、重い量刑にはならないと思われる。
 過去の著名な事件では、夫の介護を続けていた妻が、36年前の不倫を詳細に話し始めた夫に対し激高し、夫の頭や顔を数回殴り死亡させたという事件で、懲役3年執行猶予5年になったものがある。他方で、夫に浮気の事実を問いただしたところ、逆に怒り出した夫から、悪口や屈辱的なことを言われて激しい怒りを感じ、夫をひもで絞殺したという事件では、自首の成立や度重なる浮気、暴力などがあったにもかかわらず、懲役3年の実刑となっている。同じような事件にもかかわらず判断が分かれたのは、介護による不安感により、正常な判断ができなかった点があると思われる。
 本件は裁判員裁判であるから、一般の方が、裁判員として判断することになるため、弁護側が、いかに元事務次官に有利な情状を、説得的に説明できるかにかかっているだろう。現在の世論は元事務次官に対してかなり同情的なように見受けられるため、個人的には、執行猶予付きの判決もありえるものと考えている。

(文責:石﨑冬貴 令和元年6月6日)

 

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