粘り強い交渉で示談が成立した事例
罪名:児童買春・児童ポルノ禁止法(通称)
解決までの期間:1か月
最終処分:罰金
母親からの電話
「息子が逮捕されてしまいました。」
母親からの電話で、この事件は始まりました。話を聞くと、1年近く前の児童買春で逮捕され、どうやら何件かありそうとのこと。昨今、児童買春事件の処罰は非常に厳しいですので、若干、先行きの不安を感じながら、話を聞きに接見に向かいました。
どのような買春が重いのか
どのような買春事件が厳しく罰せられるかというのは簡単に言えませんが、一般的には、児童の年齢、回数、行為の内容、買春に至った経緯などが重要と言われています。気をつけなければいけないのは、同じ児童であっても、何回も行えば、それぞれ別の買春事件となることです。また、買春行為を携帯のカメラなどで撮影したというのはよくありますが、これも児童ポルノの製造として、別途処罰される可能性があります。この事件は、まさにそれが重なった事件でした。同じ児童との間で複数件の買春を行い、さらには、カメラで撮影していたというのです。もちろん、その全てが事件として立件されるか分かりませんが、その可能性は充分ありました。
1度目の示談交渉
示談というのは、一般的に有利な事情として検討してもらえます。ただ、児童買春事件の場合、そのまま額面通りに行かないことがあるのです。なぜなら、児童買春というのは、対価を支払って児童と合意した上で行うものですから、更にお金を払えば、許さない児童などいないからです。もちろん、具体的なやり取りは保護者と行うのですが、それでも、児童を惑わせて善良な風俗を乱したという事実は変わりませんから、示談自体を評価しない検察官がいることも事実なのです。それでも、有利になる可能性が少しでもあるのであれば、出来る限りのことをするのが弁護人の役割ですので。早速、警察官を介して、被害児童の保護者に連絡を取ろうと試みました。
失敗、そして再度の交渉
数日後、警察官から連絡がありました。残念ながら、保護者は連絡を取りたくないとのことでした。性犯罪の場合は、このようなことは珍しくないのですが、こうなると、いくら交渉しようにも手の打ちようがありません。説得し、理解を求める機会すらないからです。ただ、警察官や検察官が、しっかりと保護者に説明しておらず、こちらの意図を理解していないという場合があるのも事実です。私は、何とかお詫びの機会を設けるべく、少しの時間を置いて、再度、被害者への取り次ぎを求めました。その際、お詫びが目的であることや、連絡先などは弁護士限りに留めること、などこちらの意図をしっかりと書面にしました。
示談の成立、釈放へ
もちろん、実際にどのような連絡が行われたのか分かりませんが、再度、警察官を介して保護者に連絡したところ、今度は連絡先を教えてくれたのです。私が保護者に連絡すると、このような答えが返って来ました。
「最初は、ただ、『弁護士が連絡を取りたいと言っているので連絡先を教えてよいか』とだけ聞かれたので拒否しました。でも、次に連絡がかかってきたときは、お詫びの取り次ぎが目的だと言われたため、連絡先を教えることにしました。」まさに、こちらの意図が伝わっていないかったケースでした。それから先は、勾留満期の前日まで交渉を続け、最終的に、こちらで準備したお詫びのお手紙や、被害弁償金をお受け取りいただき、無事、示談することができたのです。また、この事件では、幸いなことに、保護者の理解が好意的に受け止められ、複数件が立件されたにもかかわらず、罰金で終わることができました。
諦めないことの重要性
刑事事件というのは、被害者側も初めてのことが多いですから、弁護士から連絡が来たといっても、どう対応したらよいか分からないということがほとんどです。そんな時、「お金を受け取って全部なかったことにしてほしい」と一方的に告げたり、加害者の家族に土下座させて、示談を断れないように持っていく、といった方法を取る弁護士もいるようです。それで満足する被害者もいるでしょうから、そのような方法を頭から否定するつもりはありません。ただ、示談交渉で本当に重要なのは、犯罪被害という消せない過去、残る心の傷や不安を、どのようにして和らげるかを、加害者と共に、真剣に考えることだと思います。「示談交渉は、誠実かつ諦めずに続けることが重要である」これだけは間違いないと確信しています。
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