差し押さえの資産を隠して親子3人が逮捕 どんな事例で逮捕される?
1 報道の概要
報道によると、大阪府警捜査4課は、父の事業に絡む民事訴訟で敗訴して負担した債務について差し押さえが決まっていたところ、令和3年6月に親子4口座から合計2000万円を引き出して隠匿したという強制執行妨害目的財産損壊などの疑いで、50代の両親と30代の子の合計3人を2022年2月16日に逮捕したとのことです。
このコラムでは、刑事事件も債権回収案件もよく取り扱う弁護士が、借金を返さずにお金を引き出して逮捕される事例について解説したいと思います。
2 「強制執行妨害目的財産損壊」とは
強制執行妨害目的財産損壊罪は、強制執行を妨害する目的で、財産を隠したり壊したり、仮想譲渡(誰かに売ったことにする)したりすることを言います(刑法96条の2①)。
名前は「損壊」といいますが、隠すことも含まれます。
3 逮捕・有罪判断される事例は、会社内紛・計画倒産がらみが多い
過去、預金引き出しが財産隠匿だとして強制執行妨害目的財産損壊で逮捕されたり有罪判断されたりした事例はいくつかあります。
たとえば、大手飲食チェーン代表者が社内の内紛絡みで刑事告発されたり、計画倒産のときにお金を引き出す過程を捉えて逮捕されたり有罪認定されている事例があります。
しかしながら、これまでは、会社内紛・計画倒産がらみのものがほとんどでした。
これは、そもそもお金の引き出しが強制執行を妨害する目的だったかというところを認定しにくいという背景があります。債権者からすれば、「お金がない状況で預金を引き出しているんだから、強制執行を妨害する気持ちだったに違いない」と言いたくなるでしょうが、たとえば生活費だったり、なにかものを購入するつもりだったという言い分が成り立つと、犯罪は成立しなくなります。
この動機を捜査機関は立証しなければならないので、警察はこの手の案件を取り扱うことを極端に嫌う傾向があります。
例外的に取り扱ってくれるのは、事情についてよくわかっている協力者がいる場合に限られるのです。
4 今回は特殊詐欺の延長線で捜査された疑いが濃厚
今回は、会社内紛・計画倒産がらみではありません。しかしながら、捜査をしていたのが「捜査四課」という、組織犯罪や特殊詐欺を取り扱う部署だったという特殊性があります。
おそらく、特殊詐欺の受け子から首謀者にお金が渡される間に、この銀行口座が利用された可能性が高いのではないでしょうか。そして、捜査4課がその銀行口座を調べたところ、特殊詐欺とは関係なく、なぜか多額の現金が近い日程で全額引き落とされているということが判明し、本件の強制執行妨害目的財産損壊罪の成立の可能性があると判断されたのではないかと思われます。
本件以外でも、たとえば怪しい業者に銀行口座を売却したような方の場合は、過去の預金引き出しが強制執行妨害だとして逮捕される可能性があるということがわかる一つの事例ではないかと推測しております。
もしご不安な場合は、一度ご相談されることをおすすめします。
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