特殊詐欺事件において、黙秘を貫き不起訴となった事案
罪名:詐欺
最終処分:不起訴(処分保留)
1.事件発覚からご依頼まで
本件は、20代の方が、ネット経由で現金受取のアルバイトを行ったところ、それが特殊詐欺の受け子であって、詐欺罪で逮捕されたという事件です。
いくつかの都道府県において同様の行為を複数回行っていたということで、東京で逮捕勾留の後に起訴され、その後神奈川県警に再逮捕されて神奈川県に移送されてきたという経緯があります。
東京の事件においては国選弁護人がついていましたが、より充実した弁護活動をということで、ご家族から私選弁護のご依頼をいただきました。
2.弁護活動の流れ
現状、特殊詐欺に加担したとして起訴された場合、仮に末端の受け子や出し子であっても、非常に厳しく処罰されます。初犯であっても、基本的に実刑となるといえるでしょう。特殊詐欺による被害が社会問題化している状況を踏まえ、司法としても厳しく対処していく姿勢を示しています。
そのため、弁護活動のセオリーとしては、まず何より不起訴を目指していくことになります。そしてその際には、捜査機関に情報を与えないように黙秘することが効果的です。
黙秘とは、決して嘘を言うのではなく、事件に関して何も話さないようにすることで、憲法上も認められている非常に重要な権利かつ防御方法です。
もっとも、既に固い証拠が揃っており、起訴が免れないことが確実で、かつ示談するための資力がある場合には、一定の範囲で自白していくという方針もあり得ます。黙秘した場合は当初から自白した場合と比較すると刑が重くなり得ること、自白することで早期の身柄解放の可能性があること、当初から自白していた場合には被害者との示談も進めやすいことといった黙秘のデメリットもあるためです。
このように、事件における個々の具体的な事情を考慮し、捜査機関に対して黙秘するか自白するか、自白するとしてどの範囲まで認めるかといった弁護方針を策定することが非常に重要となります。
3.本件での対応
本件においては、本人が現金の受取をしたこと自体を立証する十分な証拠は揃っているように思える一方、かかる現金受取が詐欺であると認識していたことを立証するに足りる証拠は揃っていない可能性が窺えたこと、被害額が非常に高額であってそもそも示談(被害弁償)の可能性が低かったことなどを考慮し、取調べに対しては完全に黙秘することとしました。
本人へは、黙秘権や調書作成の拒絶といった基本的なことから、黙秘するに際しての受答えのコツ、気を付けるべき雑談の内容等まで、細かな事項までしっかりと伝えました。
その上で、厳しい取調べに屈してしまわないように、頻繁に接見に伺って励まし続けました。
そのようにして一貫して黙秘を継続したところ、勾留満期日には処分保留の不起訴として釈放されるに至りました。
検察としても、手持ちの証拠のみでは起訴し罪を立証することが困難と考えたのでしょう。
4.弁護士からのコメント
本件は、黙秘が奏功して不起訴処分とすることができた事案です。このように、黙秘は不起訴を目指す上で効果的な対応ですが、一方で黙秘が最適な対応かの判断には個々の事情を踏まえ今後の展開を見通すことが必要不可欠であることは、先述のとおりです。
また、一口に黙秘といっても、取調べでのプレッシャーは相当なものがありますし、警官もプロですから、雑談に交えて話を聞き出そうとしてくるなど、対応は必ずしも容易なものではありません。弁護士が細やかな対応方法も伝えた上で、精神的に追い詰められている本人を励まし、最後まで黙秘を貫けるようにサポートすることが非常に重要になります。
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