服を着た女性を撮影するだけで逮捕される!?
8月28日に神奈川市の職員が東急田園都市線の車内で隣に座っていた女子大生(21)の全身を小型カメラで動画撮影したとして、現行犯逮捕された事件が発生してから、「服を着ている写真を撮っただけで逮捕されるのか」「街中で撮影して、たまたま写真に写った場合はどうなるのか」と当事務所にこの事件に関連する質問が多数寄せられています。
盗撮事件といえば、エスカレーターの下などから下着を撮影したときに逮捕されると思われがちですが、服を着ている場合でも、逮捕される場合はあります。
迷惑防止条例の定義
盗撮は各都道府県の「迷惑防止条例」によって禁止されており、神奈川県の迷惑防止条(卑わい行為の禁止)では、
・何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、
・人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接に人の身体に触れること。
(2) 人の下着若しくは身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下「下着等」という。)を見、又は人の下着等を見、若しくはその映像を記録する目的で写真機その他これに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置し、若しくは人に向けること。
(3) 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。 とされています。
本件の事件のように、「女性の全身写真を撮っただけで、この条例に違反するかどうか」が実際に裁判で争われた場合は、どのような判断がなされるかは難しい問題です。
最高裁の判断
類似の事件で、かつて最高裁まで争われたケースがあります。
その事件で最高裁は、女性の後を約5分間、40メートルあまりに渡って追まわし、背後の約1~3メートル離れた距離から、女性のお尻をカメラで撮影したことが、卑わいな言動に当たると判断し、有罪としました。
この時、検察側は、「身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。」の解釈として、衣服で覆われている肌を撮るのではなく、衣服の上から撮る場合でも、それが「人に不安を覚えさせるような方法」であれば罪にあたると主張していました。
この主張は、当時の裁判所では入れられませんでした(しかし、明確に否定されたとも言えないと思います)が、恐らく検察はこのような考えを保持しているのだと思います。
世間全体の流れとしては、衣服の上からの撮影も処罰しろという意見が強いようにも思えますので、判断は難しくなります。当事務所でも、このような事案を何件も扱っています。
弁護士としては、手弁当でも最高裁まで争いたいところですが、そうなりますと、依頼者(被疑者)の負担がかなり大きくなります。
それを考えると、示談して終わらせて、不起訴とすることを選ぶようになります。
実際、当事務所でも同じように下着の写真ではなく、衣服を着ている写真を撮って逮捕された事案は、示談をして、不起訴としてもらいました。
今回の事件も、恐らく示談をして不起訴として貰った(被疑者が市の職員ですから、自分の職を守るためにもそうするのが合理的です。)のではないかと思います。
上記の点から、公共の場で服を着ているからといって、無断で他人を撮ってしまった場合、逮捕されてしまう可能性はあります。
ただし、たまたま撮ったビデオに他人が写ってしまっていただけでは条例違反に問われることはないでしょう。公共の場での撮影は、マナーを守り、軽率な行為は控えましょう。