完全黙秘から不起訴となった事件
罪名:淫行
解決までの期間:2か月
最終処分:不起訴
依頼者:本人
一言も話そうとしない被疑者
普通、事件の相談は、本人や親族からの電話で始まります。しかし、このときは違いました。警察から電話があったのです。聞けば、淫行で被疑者を逮捕したが、事件のことを聞いても一言も話さない。横浜パートナー法律事務所の弁護士を呼べと言っているとのこと。不思議に思いましたが、とりあえず接見に向かいました。接見に行くと、担当の警察官が待ち構えていました。取調べをしても、弁護士を呼べとしか言わない。取調べではなく、本人の弁解を聞く手続ですら話さないので、先生お願いしますといった様子。どうしたものかと思いながら、話を聞くことにしました。
黙秘の理由
接見室に入ると、本人が私の顔をじっと見ていました。そして、接見室の扉が閉まるや否や、私に接見室での話が漏れないことを確認するのです。私が、「ここでの話は外には漏れないし、私が誰かに言うこともない」と約束すると、少し落ち着いた様子で、今回の事件について話し始めました。そこで語られたのは、黙っていれば逃げ切れるのではないか、という単純な理由でした。
本当に逃げ切れる・・・?
ホテルでの淫行をどうやって証明するのか、確かに素朴な疑問です。ただ、メールや電話の履歴など被害者との連絡状況は残っていますし、ホテルの出入り口に設置された監視カメラの映像もあるでしょう。そのような中で、否認を貫くことは、決してたやすいことではありません。何より、身柄拘束が極めて長くなります。自白して示談し、起訴猶予としての不起訴を目指すのか、否認を貫き、嫌疑不十分で不起訴を目指すのか。今回の場合、すでに罰金の同種前科がありましたので、正式裁判の可能性も充分ある中で、不透明な部分はありましたが、それでも、私としては、前者の方が可能性が高いのではないかと話しました。もちろん、実際にやってしまったのであれば、正直に話すべき、という弁護士倫理上の問題もあります。そして、2時間近く話した結果、最終的には、全て自白するとの結論に至ったのです。
難航する示談交渉
そうとなれば、早速私の方で、示談を進めなければなりません。一般に、被害者が青少年の場合、その保護者との話し合いになるので、交渉は難航することが多いのですが、今回も案の定そうでした。「子供を傷モノにされて、親としては許すことはできない」涙ながらに語る両親を見ると、示談の申し出などは極めて憚られます。しかし、長期の身柄拘束となれば、会社をクビになるでしょうし、前科がありますから、このままであれば、正式裁判となる可能性が高く、今後の人生にも大きな影響が出ます。何とか早く示談し、勾留延長も防げないものか、私は悩みました。
釈放そして不起訴
悩みながら保護者と電話や面会での交渉を繰り返しました。「反省を示したいのであって、許してほしいのではありません。受けた傷を少しでも和らげたいのです。」この言葉をきっかけに、保護者も少しずつ前向きになってもらうことができたと思います。その中で、検察官に、示談成立見込みであることを伝え、勾留延長せず、釈放することを要請しました。示談が成立していない中で、検察官としては釈放をためらう場合もありますが、私や両親がしっかりと身元を引き受ける旨伝えると、結局は、勾留の最終日、本人は処分保留のまま釈放されました。比較的短期で身柄が解放されたため、会社も続けることができたようです。そして、その後、無事示談が成立し、最終的に不起訴となったのです。
最良の選択肢は何か
当然ながら、本人の行動にも、それぞれ意味があるはずです。今回のような黙秘に限らず、一部の否認や、仮病を申告する場合もあります。弁護人としては、その真偽を見極めて、なぜそのようなことをしているのか、しっかりと話を聞く必要があります。そして、それが真実であれ虚偽であれ、その上で、その行動がどういう意味を持つのか、今後どう行動するべきなのか、法律のプロとしてその道を示すことが、弁護人の役割なのではないか。そのようなことを改めて実感した事件でした。
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