執行猶予中の再犯であったが、再度の執行猶予となった事件
罪名:窃盗
解決までの期間:7か月
最終処分:執行猶予
依頼者:父
再度の連絡
「また万引きして、ついに逮捕されてしまいました」という連絡がありました。実は、今回のご依頼者様は、何度も万引きを繰り返した結果、1年前にも万引きで自身2度目の裁判を受けていました。その時も私が弁護し、なんとか執行猶予判決を獲得したのですが、それからわずか7か月後に、再度万引きしてしまったのです。もちろん執行猶予中の再度の犯行ですから、何もしなければ実刑となり、刑務所に行くことはほぼ間違いありません。
最初の接見
接見に行ってみると、ご依頼者様の精神状態は普通ではありませんでした。接見している2時間ほどの間、途切れることなく家族に対する不満を話し続けたのです。私は、このような精神的な不安定さが事件を引き起こす原因なのではないかと考えました。そこで、ご依頼者様が、従前より通院していたメンタルクリニックの精神科医にすぐに連絡しました。精神科医からは、事件直前は精神的に不安定で危険な状態だったことなどを聴取ることができたため、精神的な不安定さが万引きの背後にあるのではないかという考えを確信するに至りました。
私は、被害に遭ったお店と示談交渉を開始しつつ、万引きと精神疾患との関係について言及している最新の医学論文などを取り寄せて研究しました。
検察官との交渉
研究の結果、治療を継続させることが何よりも重要だということが分かったので、検察官と面会し、不起訴として治療を継続できるようにと説得しました。しかし、検察官は、頑として起訴することを譲らず、結局、10日間の勾留の後、起訴されることになってしまいました。
すぐに治療を再開する必要がありましたので、起訴されると直ちに保釈を請求しました。かかりつけの精神科医の意見書を添付できたことが功を奏し、1回目の保釈請求で保釈が認められました。
なお、この頃には示談も成立し、被害に遭ったお店からは、「病気を治してくださいね」という内容の、温かいお言葉をいただくことができました。
入院治療
保釈された場合、入院治療を行えるよう事前に準備を進めていましたので、保釈された2日後には入院治療を開始することができました。
入院期間は2か月に及び、その間度々電話し、時には病院を訪問するなどして、ご依頼者様の気持ちが少しでも落ち着くよう努めました。
不安要素から離れることができたご依頼者様は、日に日に落ち着いていっているようでした。
退院後の問題
退院後、自宅に戻りました。退院当初は何の問題も無かったのですが、1か月ほど経つと、家族との関係が悪化し、ご依頼者様は事件前のように情緒不安定になってしまいました。連日かかってくる電話では気持ちを落ち着かせるようにし、同時に家族にも連絡して、理解を求めました。
それらが功を奏し、ご依頼者様はやや不安定ながらも、感情をコントロールできているようでした。
再度の執行猶予に
裁判では、かかりつけの精神科医に作成していただいた本格的な意見書を提出し、また、治療期間を延ばし、治療や家族のサポートがうまくいっていることを示すため、裁判の期間を通常よりもかなり長く取ってもらいました。
その結果、うつ病が万引きの引き金になったこと、本人が反省していること、被害店舗が許してくれていること、治療を継続していること、家族のサポートがあることなどを考慮してもらい、裁判官は、再度の執行猶予の判決を下しました。
諦める必要はない
執行猶予中に再度犯行を犯してしまうと、ほとんどの場合では、刑務所に行くことになってしまいます。しかし、その犯行が、自分の意思というよりも、病気によって引き起こされているというような場合には、しっかりと治療につなげることで、再度の執行猶予付判決をもらうことも不可能ではありません。執行猶予中の再犯だからといって諦めず、できることを全てやることが、ご依頼者様、ご家族様にとってよりよい結果につながることを実感できた事件でした。