窃盗目的で営業所に侵入した無職の男を私人逮捕した事案を解説します
1 事件の概要
建設資材などの卸売販売を行う営業所の事務室に侵入し、食料品を盗もうとしたとしていた無職の男を、出勤してきた営業所の所長が発見・逮捕した。署長はその場で男を取り押さえ、窃盗は未遂に終わった。その後、所長が「ガラス戸を割って侵入し、物色している人物を発見したので捕まえている」と110番通報し、駆け付けた警察官に身柄を引き渡した。
本件事案をもとに、法的に問題となる点を解説します。
2 私人逮捕は認められるのか?
最近、痴漢行為などをしたものを、私人が逮捕してユーチューブなどに載せる行為が目立ってきています。このような一般人による逮捕は、現行犯のときに限って認められています。逮捕する緊急性が高いうえ、犯人を誤認する恐れも少ないということで、このような私人逮捕も認められたのです。
ただ、制度として認められていても、現実には本当に現行犯なのかなど、後になって争われることもあります。また、逮捕の際に暴力行為など行き過ぎが問題視される可能性も否定できません。
3 本件における私人逮捕
本件では、ガラス戸を割って犯人が侵入しており、事務所内部を物色しており、これは典型的な現行犯といえます。また、特に行き過ぎた暴力なども行われていません。まさに私人逮捕の規定は、このような状況を想定して作られたものといえます。
4 私人逮捕後の手続き
私人逮捕された犯人は、本件のように警察に引き渡されることになります。その後は通常の警察による逮捕の場合と同じように、手続きが進んでいきます。通常は、逮捕後勾留され、起訴されるのか否か、起訴の場合は罰金刑の略式起訴か、公判請求とされるのか等が、勾留期間中に検察官によって決められていきます。
5 本件の弁護活動
本件では、事務所が被害者であるので、そこに対する弁償をして、許して貰えれば不起訴となる可能性も出て来ます。もっとも本件のように、事務所に入って食料を探していたというような犯人は、ホームレスの可能性も否定できません。刑務所に入りたくて、事件を起こすような場合もあります。そのような場合には、弁護士として有効な弁護活動をしていくのも、かなり難しいと言えます。