7回にも及び万引きを繰り返していたが、執行猶予を獲得できた事例
罪名:窃盗(クレプトマニア)
最終処分:執行猶予
執行猶予中の再犯
父親が、万引きで逮捕されてしまった。びっくりして面接にいくと、すでに執行猶予中の再犯だと聞きました。父は高齢だし、母が、難病でいつどうなるか分からない状態なんです。父には、やったことは反省して償ってもらわないといけないですが、娘としては、母を最期に看取らせてあげたいのです。先生、なんとかなりませんか。
最初に受けた娘さんからのご相談です。執行猶予中の再度の犯行ですから、何もしなければ実刑となり、刑務所に行くことはほぼ間違いありません。とはいえ、執行猶予に至るまで、かなりの数、万引きを繰り返しており、相当難しい案件です。それでも、娘さんのお気持ちに応えるために、できる限りのことをやってあげたいと考えました。
クレプトマニア?!認知症による繰り返し?!
今回の万引きの件に至るまで、警察にお世話になった件だけで、7回にも及び万引きを繰り返していました。この話を聞いたときに、まずは、クレプトマニア等の疾患の可能性を疑いました。このことを立証するために、専門病院を受診してもらい、診断書を取得してもらってきました。その結果、万引き等の犯罪傾向がでやすい認知症という診断結果が出ました。これを、責任能力を争うとともに、情状に酌むべき点があると、主張していくという方針を取りました。
娘さんの監督の誓約
今回これだけ繰り返してしまった理由を聞くと、本人が娘さんに迷惑をかけたくないと、警察のお世話になっていたことを娘さんに黙っていたのです。万引きは、犯罪の中でも特に繰り返しやすい犯罪なので、家族の協力による再犯の防止が必要不可欠です。娘さんに、話してなかったことが、ここまで事態を悪化させた原因の一つではありますが、これは今回の裁判にとっては一つの有利な事情となります。
つまり、以前は、娘さんの監督がなかったので、繰り返してしまった。今度からは娘さんの監督が期待できるので、再犯を防止できる。だから、刑務所に入れずに、社会で更生のチャンスをください、といった主張です。
そのため、二人の娘さんに、密に協力をしてもらい、移動の際の付添、同居、お金の管理など、厳密にお父さんを監督してもらうことを誓約してもらいました。
涙の裁判
本件の状況としては、弁護士が手を尽くしても、刑務所に入る可能性のある事件でした。そのため、裁判準備にも一層力を入れました。認知症、娘さんの監督を主軸に、容体の良くない奥さんを看取りたいという本人の想いを、涙ながらに伝えるというできる限り最高の裁判になるように取り組みました。
再度の執行猶予を獲得!!
判決の場面も非常に緊張を伴うものでした。今回は、刑務所に入る可能性の非常に高い案件であったので、娘さん方には、着替えなども準備してもらっていました。私自身も裁判までやり尽くしたという想いがあるものの、緊張を隠せませんでした。
前の人の判決を聞くと、ほとんど同じ罪状の方が、実刑判決ということで、連行されていき、「やっぱり、厳しいか。」と思うなか、判決の宣告が始まりました。
その結果、ギリギリの状況でしたが、なんと再度の執行猶予を獲得できました!判決理由では、裁判で力を入れた、認知症という事情、娘さんの強い監督、そして、難病の奥さんへの強い想いなど、これらの事実をしっかりと裁判官に酌んでもらったことが分かりました。
最後まで諦めない
今回の事件は、状況として非常に厳しいものでした。良く説明して、お断りするのも依頼者の方になる事案ではないかとまで考えていました。ただ、それでも娘さんの「私たちにできることなら何でもするので、父に母を看取らせてあげたいのです。」という想いに応えるため、弊所でもできる限りお力になれるように全力を尽くしました。その結果、獲得できた再度の執行猶予です。依頼者の方々と、弁護士が、最後まで諦めずに戦うことの大切さを改めて実感した事件でした。