10代前半女性にわいせつ画像を送らせて逮捕された容疑者が黙秘
児童ポルノの案件で黙秘は有効?
1 報道の概要
報道によると、佐賀県警は、2022年1月31日、10代前半の少女が18歳未満と知りながら、少女にわいせつな画像を撮影させ、会員制交流サイト(SNS)を通じて送信させたという児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで、無職の男(34)を逮捕したとのことです。逮捕された男は黙秘しているとのことです。
このコラムでは、同種事案を多数取り扱った経験から、この手の事件で黙秘が有効かどうか、そのデメリットについて解説します。
2 黙秘は自由
「黙ってるなんて、言えないことがあるからに決まっている!反省していない!」と思うのは、普通の気持ちだと思います。私も、本心ではそう思います。
しかしながら、黙秘自体怪しいからこそ、捜査機関は無理やり自白させるために拷問や利益誘導をして、結果として多数の冤罪が生み出されて来ました。その歴史的な経験を踏まえ、黙秘権という「黙秘のみを理由に不利益な判決を受けることはない」ということが憲法・法律で定められたのです。
また、拷問等がほとんどなくなった今でも、捕まった罪そのものではなく、類似の事件で未解決のものを、その容疑者のせいにされる事例がよくあります。捜査機関が、反省している容疑者に対して、「お前、この件もやったんだろ。1件も2件も一緒だぞ。正直に言え」と言って、全く見に覚えがない件の自白をさせるというのは、私も経験があります。そういう事件は、客観的な証拠がないので、黙秘をすることで、関係ない余罪の追及をうけることを避けることができます。
さらに、今回のような18歳未満かどうか年齢の認識についても、捜査機関は、「幼いってわかってたんでしょ」という誘導で、自白を取ろうとします。本当は年齢について気にしていなかったという場合でも、そう誘導されたら、そんな認識だったように思う人も多いはずです。これで、自白が成立してしまうこともあります。
以上のような事例では、黙秘がとても有効です。
しかしながら、黙秘することは、デメリットもあります。
3 黙秘のデメリット
黙っていることの最大のデメリットは、身柄拘束期間が伸びるということです。黙秘していることは、本人から正直に話がなされないということで、「証拠を隠すおそれがある」とされ、逮捕・勾留がされやすく、その拘束期間も伸びやすいといえます。
また、保釈も認められにくいように思います。
4 私が担当弁護士ならどうアドバイスするか
逮捕されてから弁護士が来るまでの間、どうしたらいいのかというのは悩ましいところです。ただ、本件のような画像を送付させたという事件は、通常はSNSに履歴が残っており、犯行の経緯が明らかであることが多いです。
そのような事件で、とくに年齢に関するやり取りをメッセージでしていた場合は、正直に話をしても、関係ない件に巻き込まれることは少ないですので、正直に答えて、早期の釈放を目指すというのもよいことだと思います。
一方で、年齢の認識がなかったような場合は、黙秘をするということが一般論としては有効でしょう。警察は、「この子、幼いってわかってたんでしょ」という形で誘導して自白を取ろうとしますので、この場合は黙秘をすることがよいでしょう。
ただ、本件は、被害児童が10代前半とのことですので、普通は幼いと認識していたはずですし、18歳未満だと知らなかったなどと争うのは難しいように思います。私が容疑者なら、黙秘せず、話をするだろうと思います。