被害者の家族が納得するまで話合い、示談をした事例
罪状:神奈川県迷惑行為防止条例違反(盗撮)
解決までの期間:3か月半
最終処分:不起訴
依頼者:本人
女子高生を相手にした盗撮事件
「とにかく被害者の方に謝罪をしたい。」そう言って自分の犯した盗撮事件について相談をしてきたのは、30前後の元会社員の男性でした。男性は、ある日スーパーマーケットで、女子高生の後ろからスカート内に向かってスマートフォンのカメラを向け、撮影してしまいました。スーパーマーケットを出るなり警備員に呼び止められ、そのまま警察に連れていかれ、取り調べになりました。男性は警察官から、被害者にきちんと謝りたいのであれば、弁護士に相談するべきだと言われたため、弊所を訪れたのでした。
盗撮事件の見通しと弁護方針
男性には前科がありませんでした。前科が無いうえで盗撮事件を起こすと、よほど悪質でない限り、略式裁判のうえで罰金刑になります。略式裁判とは、よくドラマで見るような裁判を行わず、検察官の提出した書類をもとに、通知で本人に処分を下す手続きです。
とはいえ、略式裁判であっても有罪の判決になりますし、罰金刑を課されれば、前科もついてしまいます。男性は前科が付くことを避けてほしいという気持ちもある一方、まず被害者の方に誠意をもって謝罪したいという気持ちもありました。
そこで、被害者の方との示談交渉をすることが、最重要の弁護活動となりました。盗撮事件の多くは、弁護人を通じて被害者の方に謝罪の意思を伝え、謝罪金を受け取ってもらい、盗撮事件のことを許してもらえば、示談成立ということで、不起訴になります。不起訴になれば、裁判になることも無いですし、罰金刑にもなりません。
通例、検察官に示談の取次ぎをお願いし、相手の方が連絡を許してくれることで、示談交渉は始まります。本件では、被害者の方が女子高生だったため、女子高生のお父様とお話をすることになりました。
なかなか納得してくれない被害者のご家族
私が担当している示談交渉では、必ず先に謝罪の意思を示し、謝罪金を受け取ってもらえるようお願いしたうえで、このままだと加害者が起訴される点や、合意書(示談書)を作成させてもらいたい点などを順次お話していきます。また、加害者が被害者に接触しないことや被害現場近くに立ち入らないことを誓約していることをお伝えするなどして、少しでも被害者の方に安心してもらうというケアも行います。
しかし、どんなに細心の注意を払ってお話をしても、初めのうちは、保護者の方(特にお父様)が怒りを顕わにされる場合は多々あります。本件では、起訴されてもいいと思っているということをはっきりと言われてしまうと同時に、もっと誠意を見せて欲しいということを言われ、何度もお父様と当方との間で、電話のやりとりをしました。
依頼者と相談のうえで被害者の方が納得する示談書作りを
特に、お父様が心配されていたのは、取った写真が現存していて、流失しないかといった点や、加害者が被害者に今後接触しないかといった点でした。もちろん、これはどのような親御様であっても気になさることでしょう。しかし、お父様は、スマートフォンのクラウド上に写真があがっていないかということや、SNSを通じて、加害者が被害者を詮索しないかなど、具体的な状況を一つ一つ想定しておられ、その心配は人一倍お強いものでした。
ですので、それらのご心配に一つ一つ誠意をもって確認、誓約をさせて頂き、二度と危害を加えないことをしっかりと納得して頂くことが課題になりました。最終的にそういった確認や誓約の内容を、示談書にまとめることになります。お父様のご指摘があれば、その都度依頼者に持ち帰り、お父様に納得してもらえるよう、誓約内容や示談書の表現を検討しました。
誠意をもってお話をさせて頂いた末に・・・
こうして、じっくりと協議の時間をかけた末、示談書が完成するとともに、被害者のご家族には謝罪金を受け取っていただき、起訴にしなくともよいというお言葉も頂くことができました。男性は不起訴となり、被害者の方に改めてお詫びの気持ちと感謝を述べ、新たな生活を過ごしています。
本件のようなお父様のご心配は、一般的な事案よりも複雑なものでしたが、現代の技術や社会をふまえれば、もっともなものとも言えます。そういった細やかなご指摘もしっかりと検討し、ケアをすることが、加害者の誠意と謝罪の気持ちを理解して頂くことに必要不可欠なことであることを学んだ事件でもありました。