示談が難しいとされる「店舗」との示談が成功し、不起訴となった万引き事例
罪状:窃盗罪
解決までの期間:3か月
最終処分:不起訴
依頼者:本人
1 自らも記憶がない数年前の万引き事件
「警察に呼ばれています。何か私がしてしまったのかもしれませんが、よく思い出せません。」
初めてご相談を受けたとき、依頼者はそう言って声を震わせていました。
その方は、突然警察に呼ばれ怖くなってしまい、警察署への同行を私に依頼して来ました。なんでも、警察署に来るよう電話が来たのだそうですが、何のことなのか、身に覚えがないそうなのです。
警察から突然連絡が来れば、不安になるのはもっともです。私は、依頼者の弁護人となり、出頭に同行することになりました。
取調べを受けて、依頼者は、自分がお店で品物を万引している動画を見せられ、数年前に品物を盗んだことを思い出し、事件を認めたのでした。
2 窃盗の被害者が店舗であることの難しさ
示談交渉は、窃盗事件の弁護活動になくてはならないものです。普通は、被害弁償に謝罪金もプラスで受け取って頂き、事件のことを「許す」というお言葉を頂くことが、理想の形です。
しかしながら、お店が被害者である万引き事件に対する示談活動には、特有の難しさがあります。示談の条件が、お店を経営する会社の判断に委ねられることが多く、なかなか理想的な示談をすることが出来ないのです。
例えば、会社としては年間何件も窃盗被害に合うため、謝罪金をいちいち受け取っていないという場合が多いです。また、一人を許すと万引を広く許容することにもなりかねないため、「許す」とまで答えて頂けない場合が多いのです。
3 それでも粘り強く交渉することの大切さ
とはいえ、会社としては、被害品がそもそも売り物ということもありますので、被害弁償金は受け取ってくれることが多く、私も示談交渉をする際は、まず必ず被害弁償をするよう、ご本人にも勧めます。
今回の事件でも、まず最低限の被害弁償を受け取って頂くことは出来ました。その上で私は、謝罪金とともに、事件を許して頂くために、合意書をお店にご提案し、交渉を試みました。
会社には、はじめの段階から、謝罪金も受け取らないし、許すという判断も出来ないと言われました。しかし、粘り強く交渉し説明を重ねたことで、謝罪金は受け取って頂けなかったものの、検察に対し、刑事処分を積極的に求めるようなことまではしないことを約束してくれました。
そして、検察官がその事情をくみとってくれたこともあり、依頼者は不起訴になりました。
4 店舗が被害者といえども、、
今回の事件は、万引き事件とは言え、被害額が高額だったこともあり、決して些末な事件ではなく、その点を検事に指摘されたことを覚えています。
しかしながら、示談の結果を知った検事が、会社との交渉を積極的に評価していたことも、強く記憶に残っています。
もちろん、相談の上、依頼者がクリニックの診断を受けられ、再犯防止策をきちんとされた甲斐もあって、出来る限りの弁護活動が出来た点も大きかったです。
とはいえ、会社や店舗と一言にいっても、柔軟性や運用はそれぞれであり、動かしているのは人なのだから、被害店舗に誠意をもってご説明することや、事案に応じて丁寧にご提案をしていくことが大切なのだということを考えさせられた事件でした。