少年事件の実名報道について
1 報道について
令和3年10月22日、同月12日に山梨県甲府市で住宅が放火され夫婦の遺体が見つかった事件で、日弁連の荒中会長は、週刊新潮が同居する次女への傷害容疑で逮捕された少年(19)の実名や顔写真を掲載したのは「少年法に反するもので、決して許容されない」とする声明を発表しました。
そこで、今回は少年の実名報道の是非についてコメントいたします。
2 少年の実名報道を禁止する根拠
そもそも少年の実名報道はなぜダメなのか、というところですが、その根拠は少年法61条に規定があります。
少年法61条では、「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」と規定しております。
つまり、推知報道は原則禁止となります。これには少年のプライバシー保護や、更生・社会復帰のチャンスを妨げる報道等を禁止する目的があります。
3 報道の自由との対立
では、少年法61条があるのにどうして少年の実名報道がされてしまうのか、という疑問が出てきますが、それは報道機関にも憲法21条の表現の自由(報道の自由)が認められているからです。
この少年法61条と憲法21条の対立はしばしば問題となります。
少年法61条には罰則規定がありませんので、違反したとしても刑事罰を受けることはありません。一方で、報道の自由があるからといってなんでもありというわけでもありません。実名報道された少年側が報道機関に対し名誉棄損などで訴訟を提起することもありますし、最終的には、報道の必要性や有益性とそれによって受ける少年側の不利益をどのように考えるのか、ということになります。
4 少年法の改正
令和3年5月に少年法が改正され、令和4年4月1日から施行されます。
この改正により、18歳以上の少年(特定少年)のとき犯した罪については、一部の場合(一定の重大な犯罪で検察官が起訴した場合)には、推知報道の禁止が解除されることとなります。
これは、選挙権年齢や民法の成年年齢の引下げにより責任ある立場となった特定少年については、一定の場合には、社会的な批判・論評の対象となり得るものと考えられたことによります。
ただ、今回の報道に関しては、改正少年法の適用を受けたとしても推知報道禁止の解除の段階に至っていませんので、少年法61条と憲法21条の対立は、今後も残るものと考えられます。