公然わいせつの弁護
このページは、弁護士山村暢彦(神奈川県弁護士会所属)が、2019年10月1日までに得た経験及び知識に基づいて執筆しています。
目次
1.公衆わいせつ罪とは
公然わいせつ罪は、「公然と」「わいせつ」な行為をしたときに成立します。(刑法174条)。
「公然」とは、不特定または多数の人が認識することができる状態のことを言います。
分かりやすく言えば、公共の場でという認識でいればよいと思います。自分の部屋や、ラブホテルなどの部屋の中であれば、プライベートな空間内ですから、「公然」には当たりません。逆に、公道、駅、公園等の公共の場であれば、「公然」との要件を満たすことになります。
限界事例としては、マンガ喫茶の廊下・個室内はどうかという相談もありました。この辺りの認定になりますと、警察の裁量的な判断もかかわってくるところです。あくまで個室だから公然性がないという解釈もあれば、不特定多数の利用者がいる空間だからと公然性があるという解釈もあり得るところだと思います。弊所での経験で言えば、マンガ喫茶の個室では、公然性なしということで、捜査打ち切りになった件もございました。
「わいせつ」な行為とは、性欲を刺激・興奮させ、人の性的な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為を言います。芸術作品とわいせつ性のような話をしますと、実務から離れた論点に発展するのでここでは省略します。一般的には性器の露出、また性交・性交類似行為も当然わいせつ行為にあたる、という理解があれば十分かと思います。
2.公然わいせつ罪の刑罰
公然わいせつ罪に対する刑罰は、「六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と定められています。
一般的には、初犯の公然わいせつ罪であれば、30~50万円前後の罰金となるケースが多いようです。ただし行為の内容の悪質性によっては罰金では済まない可能性もありますので、罰金で済むと高を括るのは危険です。まずは弁護士に相談し、今後の見通しについてのしっかりした説明を受けることが賢明です。
弁護活動を行う前提であれば、初犯・公然わいせつのケースであれば、弁護活動の結果、不起訴処分を獲得できた事例が多いです。後にも述べますが、事実上の被害者である目撃者と示談するケースや、贖罪寄付によって不起訴処分を獲得できたケースがあります。公然わいせつ事件では、罰金処分になってしまうと諦めずに弁護活動に取り組むことが重要だと言えます。
3.公然わいせつ罪が発覚するケース
一言で言えば、目撃者が警察に通報するケースが多いです。現実の公然わいせつ事件では、①見せる目的でなく、性交渉を公園等で行っていたところを目撃されるケースと、②たとえば、女子高生に性器を見せる目的で意図的に露出するケースの2パターンが多いように思います。
目撃者は、①関係のない通りすがりの目撃者が通報するケースと、②事実上の被害者が通報するケースの2パターンがあると言えます。一般的に通報の可能性が高いのは、②の目撃者が事実上の被害者のパターンです。とはいえ、関係ない第三者の目撃者であっても、今後の治安の維持や、不安感の払拭のために通報するケースは一定数あります。
4.公然わいせつ事件と後日逮捕
公然わいせつ事件はある程度の時間が経ってから警察に発覚し、捜査対象となるケースもありますが、一般的には数カ月以内に発覚捜査されるケースが多いように思います。目撃者の目撃情報だけでなく、監視カメラ等の客観的資料がどこまで集まるかによって、立件されるのか否かが変わってきます。
ただ、公然わいせつ事件というのは、本来的には、公共の場でわいせつな行為をしたことを罰する罪であって被害者がいない罪になります。このような場合、自首を行っていたということが、情状を良くする事実の中でのウェイトが大きくなります。そのため、見つからなければいいやと高を括るよりも、早期に自首するほうが、最終結果が良くなる可能性もあります。この辺りの判断は、一度具体的事情を弁護士と相談の上、判断されると良いかと思います。
5.公然わいせつ事件の弁護方針(罪を認める場合)
【性交渉を第三者に目撃されたような場合】
公園で性交渉を行っており、それを通行人に目撃されたようなケースを想定してください。このような場合でも、目撃者である第三者を不快にさせたのであるから、この第三者と示談する弁護活動も考えられます。ただ、通行人の目撃型の場合、あまり目撃者の方には当事者意識がない方も多く、示談の話を進めるのが困難なケースもあり得ます。このような場合には、むしろ、本来的に被害者を想定していない刑事犯罪だという原則に戻り、被害者が存在しない事件に対する刑事弁護のための贖罪寄付を行うことが考えられます。贖罪寄付とは、被害者が不明の状態の犯罪や、覚せい剤のように特定の被害者が想定できない犯罪のときに、自らの反省(贖罪)のために、寄付を行うというものです。具体的な寄付先としては、被害者の支援等を行っている法テラスを選択することが多いです。一般の方には馴染みがないかもしれませんが、裁判所、検察庁等の法曹関係者には身近な組織ですので、その寄付金の使途や組織の信頼性も高く、説得的に働くと考えられるからです。
【事実上の被害者が存在する場合】
たとえば、露出癖のある男性が、帰宅中の女子高生に性器を露出して逃げていったようなケースを想定してください。前述したように、このような場合であっても、公然わいせつ事件では、厳密には、法律上この女子高生は被害者にはあたりません。もっとも、実際上、怖い思いをしたのは、この女子高生ですよね。なので、このような状況であれば、「事実上の被害者」である女子高生、未成年なのでそのご両親と示談をすることで、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
示談をする際には、示談金の額も重要ですが、まずはお金の多寡よりも今後娘さんが安心して暮らせるように、接触禁止条項や、特定エリアへの立ち入り禁止の約束が重要な内容になってくるケースが多いです。示談金の相場としては、経験的には、30~50万円程度が一般的かと思います。
6.公然わいせつ事件の弁護方針(無罪を主張する場合)
このような書き方をすると誤解を与えるかもしれませんが、公然わいせつ事件で、冤罪等の状態で捜査が進んでいることは、そう多くないように思います。公然わいせつ事件の場合には、やはり客観的な証拠がどこまで揃うのかが重要です。夜間や公道等で発生するケースが多く、目撃者や監視カメラの数が多いことも想定しづらいです。以前、当職が担当したケースでも、警察自身による目撃によって立件されたものがあり、一般の方の目撃者ではそもそも立件が難しいケースも多いです。そのため、証拠が不十分な事件であれば、そもそも捜査が開始されない、途中で打ち切られるようなケースも多く、無罪主張で争うケースは実務的にそう多くはないのではないかという印象を受けます。
とはいえ、公道わいせつの無罪主張を行う場合には、相談者の方と、警察・捜査機関との認識がずれているわけですから、依頼者からの話をよく聞いて、捜査機関側の主張とどのように矛盾し、客観的証拠からどのように説得できるかを検討することが重要だと言えます。
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