窃盗罪の弁護
この記事は、弁護士下田和宏(神奈川県弁護士会所属)が、2019年10月7日までに得た経験及び知識に基づいて執筆しています。
目次
1.窃盗罪の刑罰
窃盗罪の刑罰は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
ただし、過去10年の間に6カ月以上の懲役刑を「3回以上」受けた者が、常習として窃盗をした場合は、「常習累犯窃盗」として3年以上の懲役に処せられます。
2.人の物をとったら窃盗罪
窃盗罪が成立するためには、「物」に対して「人の支配」が及んでいることが必要です。
「人の支配」は主観と客観で判断しますが、例えば、路上などの不特定多数の人が行き来する場所に「置き忘れた物」は、主観的にも客観的にも人の物だと認識できませんので、誰の支配も及んでいないと考えられます。この場合の置き忘れた物をとったとしても窃盗罪は成立しませんが、「遺失物横領罪(1年以下の懲役または10万円以下の罰金若しくは科料)」という別の犯罪が成立します。
これに対して、旅館や公衆浴場などに置き忘れた物は、同じように不特定多数の人が出入りしますが、当該施設の内の物については、当該施設の管理責任者の支配が及んでいると考えられるため、窃盗罪が成立します。
3.窃盗の逮捕率は約33%(2018)
2018年の窃盗事件のうち、被疑者が逮捕されたケースは約33%です。窃盗事件の約3人に1人は逮捕されていることになります。
また、窃盗で逮捕された後、勾留請求されるのが全体の約93%で、このうち勾留が認められるのが約90%ですので、逮捕された場合は高確率で勾留までされてしまいます。
勾留は原則10日ですが、さらに10日延長可能ですので、最大20日が勾留期間になります。
※本ページの数値は2018年の検察統計年報に基づいています。
4.早期釈放に向けて
上記のように、窃盗事件は逮捕されると、高確率で勾留されてしまいます。勾留されると、原則10日、最大20日は身柄が拘束されます。これを回避するためには、そもそも勾留請求をされないようにするしかありません。被疑者の勾留については、まず検察官が勾留請求するかどうかを判断し、次に裁判官が検察官の勾留請求を認容するかどうかを判断します。
ですので、弁護士としては、まずは検察官に意見書や身元引受書等を提出して、勾留請求をしないように交渉をします。検察官に勾留請求をされてしまった場合は、裁判官と面談して、勾留請求を認容しないように交渉します。
5.窃盗の起訴率は約40%(2018)
2018年の窃盗事件のうち、起訴されたケースは約40%です。起訴されたケースのうち、略式請求(簡易な手続き)が約21%、公判請求(正式な裁判)が約79%です。
初犯の窃盗事件の場合、被害金額が10万円以下であれば、不起訴か悪くても罰金となることが多いといえます。さらに少額の万引きなどであれば、微罪処分として、検察庁へは送致されず、警察段階で事件が終了することもあります。
他方、被害金額が10万円を超えるような事案では、初犯であっても公判請求となる可能性が高くなります。
また、窃盗といっても、万引きや置引きなどの被害金額も大きくない単純な事件もあれば、住居侵入窃盗やひったくりなど、計画性があり犯行態様が悪質であると判断される事件もあり、後者の方が、処分も重くなる傾向にあります。
ただし、初犯の場合は、被害者との示談が成立しさえすれば、いずれのケースでも不起訴となる可能性は高いと言えます。
前科がある場合でも、被害者との示談が成立すれば、不起訴となる可能性もありますし、起訴されても処分は軽くなります。ただ、執行猶予中の犯行では、執行猶予が取り消され実刑となる可能性が高いといえます。このような場合には、示談だけではなく、家族やクリニックへの通院といった再発防止のための具体的な取組みが必要となります。
6.窃盗罪の弁護方針(罪を認める場合)
【自首をする】
窃盗が警察等の捜査機関に発覚すれば、逮捕の可能性が出てきます。先ほどのとおり、3人に1人は逮捕されてしまいます。自首により自ら名乗り出ることで逮捕の可能性は下げることができ、通常通りの生活をすることができる可能性が高くなります。
弊所では、自首同行として、弁護士がご本人から詳しく話をうかがい、報告書を作成し、警察に連絡を取ると共に出頭の日程を調整いたします。
自首による逮捕のリスク回避やご不安な思いを和らげるためにも、弁護士が自首に同行するのが有効な手段になります。
【示談をする 】
被害者がいる事案では、被害者との示談が出来ているかどうかは、刑罰の量刑を決めるうえで非常に重要な要素となります。このことは窃盗事件でも同様です。
検察官も、起訴とするか不起訴とするかを判断するにあたり、非常に重要視しています。
また、起訴されてしまった後であっても、示談をすることは遅くありません。示談の成否は、裁判官も非常に重視していますので、執行猶予となるかどうかを決めるための重要な要素となるからです。
弊所では、過去に不起訴処分や執行猶予を獲得した豊富な経験から、被害者に対して真摯に謝罪をして、被害弁償の金額を交渉し、ご依頼者様にも納得していただける形で、不起訴処分等の獲得のために尽力させていただきます。
7.窃盗の弁護方針(全部または一部を否認する場合)
窃盗事件においては、そもそもお金や物を取っていないという事案や、お金をとったことは間違いないが、その金額に被害者と食い違いがあるという事案も多くあります。
このように事件の全部または一部を否認する場合、目撃者や防犯カメラなどの客観的な証拠がなければ、被疑者と被害者の供述の信用性が裁判では重要になります。
捜査機関は、被疑者に対して、様々なプレッシャーを与えるなどの方法により、事件を認めるように働きかけてきます。自白とまではいかなくても、少しでも認めるような供述、またはそう受け取れる供述をしてしまうと、その内容を裁判でひっくり返すことは困難ですので、このような働きかけには決して屈しないことが重要となります。
しかし、捜査機関の取調べに屈しないためには、強靭な精神力が必要となりますが、1人で戦っていたのでは限界があります。このためには、弁護士が被疑者と頻繁に接見し、密にコミュニケーションをとることにより、自白調書をとられないようバックアップをしていくことが最善となります。また、ときには、行き過ぎた取調べが行われないよう捜査機関にも意見書をだすなどし、攻める姿勢で捜査機関とも交渉いたします。
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