過失運転致死で有罪後に、ひき逃げめぐる裁判で2審は逆転無罪との事案を解説

1 事件の概要

中学生が車にはねられて死亡した事故をめぐり運転していた会社員がはねたあとにコンビニに寄ったとしてひき逃げの罪に問われた裁判で、2審の東京高等裁判所は「コンビニから戻ったあとに人工呼吸などを行っており救護義務違反には当たらない」としてひき逃げの罪と判断した1審判決を取り消し、無罪を言い渡しました。

本件ではすでに、車ではねて死亡させた点については有罪判決が確定しています。しかし、救護義務違反の罪にとわれなかったことを問題視した遺族の声を受けて、検察が救護違反でも起訴していた裁判です。1審の地方裁判所はひき逃げの罪にあたるとして懲役6か月の実刑判決を言い渡しました。2審の判決で東京高等裁判所は「ただちに車を止めて被害者を捜索しているほか、コンビニまでの距離も50メートル程度にとどまっている。コンビニから戻って被害者を発見すると人工呼吸などを行っており、ただちに救護措置を行わなかったとは言えない」などと指摘し無罪としました。

 

2 当初は検察も罪に問うのは無理と判断していた

本件では、過失によって人をひき殺した点については、既に起訴されて有罪が確定しています。その際に、本来ならば救護違反についても一緒に起訴されなければおかしいのですが、検察は当時、これは救護義務違反には当たらないと判断して、起訴していなかったものです。このような事件で、後から起訴されたような場合、無罪判決が出るケースは多いと言えます。

 

3 何故救護義務違反とならないのか

救護義務違反は、救護をしなかったときに発生します。救護はしたが、それ以前に他のこともしていたという場合には、救護義務違反と言えるのかは難しいところがあります。今回の事件でも、犯人は一応救護活動をしています。しかし、それ以前に自分の罪を免れるための行為をしていた。常識的には悪質性が目立つ行為であり、これが許されて良いのかという疑問が残る。そこを重視して、検察も起訴し、一審では有罪判決が出ています。しかしながら、これまでの法律の解釈からすると、救護義務が無かったとは言えないとしたのが、高等裁判所の判断です。

 

4 裁判員裁判なら

本件事件については、裁判員の対象事件とされていません。そもそも、これ以前の過失致死の裁判でも裁判員の対象とはなっていません。

これまで多くの案件で、裁判員の判断において、これまでの法律専門家の見解が覆されてきました。本件の無罪判決は裁判員とは関係ない高等裁判所の判断ですが、仮にこういう事案で裁判員の厳しい見解が続けば、事実上法律の適用が変わってくる可能性も出てくると思われます。

 

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