電車内の痴漢事件で、高等裁判所が無罪判決を破棄したとの報道!?

1 報道の概要

平成30年に電車内で女子高生に痴漢行為をしたとして、迷惑防止条例違反罪に問われた男性が、地方裁判所では無罪判決を受けていた。この事件に対する控訴審判決で、無罪判決が破棄され、被告人は、懲役6月、執行猶予3年を言い渡わたされた。被害者の供述の信用性について、高裁は「重要な部分で第三者の目撃証言と一致している」として信用性を認めた。

1審判決では、事件当日に撮影された痴漢被害の再現写真の内容から説明が変遷しているとし、女子高生の供述の信用性を否定。「女子高生がバランスを崩し、被告の手が偶然下半身に触れたと考えた方が自然だ」として無罪を言い渡していた。

これに対して控訴審では「事件当時の状況を写真機で撮影するように記憶できるものではなく、再現写真の細部に矛盾があっても問題視すべきではない」と指摘。第三者が目撃した被告の様子は非常に不自然で「女子高生を触る目的以外に考えられない」と結論づけた。

以上の事案をもとに、問題となる法的論点を解説します。

2 無罪判決が破棄される場合

そもそも日本では、一度起訴されると、無罪判決を取ることは非常に難しいです。法律上、合理的な疑いを入れる余地がないくらい有罪であることが確実でない場合には、無罪とすべきだとされています。そのことから考えると、もっと多くの事件が無罪となっても良いはずに思えますが、現実はそうなっていません。これは、検察官が起訴するかどうかを決める段階で、非常に疑わしいもの以外は、予め不起訴としてしまうからです。

つまり、第1審である地裁において無罪とされる場合はかなり稀です。ただ、有罪であることに、合理的な疑いを入れる余地があるかないかは、それほど明確な基準があるわけではありません。そこで、地裁と高裁で、判断が分かれることはそれなりに認められます。

3 相当疑わしい事件の判決

本件の場合でも、被告人が相当疑わしいことは間違いがない。それでも、本当に本件犯行を行っていなかった可能性はある。同じような事案が10件あったとして、9人の有罪者を無罪放免したとしても、1名の冤罪者を出さないというのが、法律の建前になっています。ただ、このように、罪人の多くを放免することを、本当に国民が望んでいるのかは何とも言えません。そこで、どの程度疑わしいときに有罪とするのかは、現実の場面では非常に難しい問題となり、裁判官により判断が分かれることにもなってきます。

4 執行猶予がついたこと

無罪を争っていながら、有罪となった場合、「執行猶予などつけずに実刑判決にすべきだ」と思う人が多いでしょう。ただ、本件は争わないで認めていたら、せいぜい罰金刑で終わっていた可能性が高いです。争ったことにより、執行猶予は付いても懲役刑となっています。刑罰というのは、あくまでも「犯罪」に対する「罰」であり、「罪を認めなかったこと」に対する「罰」ではありません。痴漢行為に対する刑罰としては、他の事案との比較で考えても、この程度のものにならざるを得ません。

5 無罪を主張する方は、すぐにご相談ください

弊所では、裁判での無罪判決獲得に加えて、多くの無罪主張事件で、不起訴処分を勝ち取ってきています。一度裁判まで行けば、本件の様に非常に長い期間争うだけでなく、結果的にも厳しいものがあります。

そのための検察官との交渉や被害者との交渉など、不起訴処分を勝ち取る活動を中心に、サポートをしております。

 

執筆者・大山 滋郎の写真

執筆者情報

大山 滋郎Jiro Oyama

弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 代表弁護士