女児の手にキスをしたとしてインド人男性が暴行容疑で再逮捕されたとの報道!?
1 報道の概要
電車内の女児(4歳)の手にキスをしたとして、インド国籍の40歳の男性が暴行容疑で再逮捕されたとの報道がありました。事件があったのは、2年前の2021年3月のことで、家族が被害届を提出したため、捜査がされていたとのことです。
男性は、逮捕の20日ほど前に、別件(窃盗)で逮捕されていたとのことですが、キスの事件については、容疑を否認しているとのことです。
「手にキスをするだけで暴行罪になるの?」「2年前の事件がどうやって分かったの?」
この事件には、ニュースを見るだけでははっきりしない疑問がいくつかあるでしょう。
今回は、そういった疑問を解消しながら、弁護士が事件を解説していきます。
2 キスと強制わいせつ罪
いきなり相手の顔や唇にキスをすると、強制わいせつ罪になる可能性があります。
強制わいせつ罪は、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした際に成立する罪です。相手が13歳未満の者の場合には暴行や脅迫を用いなくとも、また、相手の同意があった場合でも成立します。6月以上10年以下の有期懲役とされており、もし起訴されたら正式裁判が待っています。
無理やり相手の顔や唇にキスをすると強制わいせつ罪になるのは、それが性的な意味や意図を持っていることが多いからです。
しかし一方で、文化によっては、挨拶としてキスをすることがあります。そして、キスを、頬だけでなく、手の甲などにして挨拶する習慣も、人によっては見受けられます。
このような挨拶としてのキスも、強制わいせつ罪になってしまうのでしょうか?
3 挨拶としてのキスに成立しうる犯罪
強制わいせつ罪が取り締まっている「わいせつ」な行為とは「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」行為と定義されています。少し難しい定義ではありますが、性的な意味を持っていて、一般的な性道徳に反していると評価されれば、「わいせつ」な行為とされる可能性があるのです。
そして、その評価をするにあたっては、キスがされた状況や経緯、その仕方、相手との関係、相手の反応、キスをした側の意図などが総合的に考慮されます。
そのような観点からすると、手の甲に挨拶としてキスをするくらいのことであれば、強制わいせつ罪が成立する可能性は低いでしょうが、程度を超えてくるとその限りではありません。
また、強制わいせつ罪にならないキスであっても、程度次第では暴行罪になる可能性が残ります。暴行罪は、相手に対して有形力を行使するだけで成立するからです。見知らぬ相手に挨拶としてのキスをしてトラブルとなった場合、強制わいせつ罪としては捜査できないけれども、暴行罪として捜査できるため、警察沙汰になってしまう可能もありえます。
本件は、インド国籍の男性が女児の手にキスをした疑いで、暴行罪容疑で逮捕されています。今見て来たように、男性が挨拶のつもりで、あるいはあいさつ程度でキスをしたものの、見知らぬ相手ということで問題になり、暴行容疑として逮捕された可能性があるでしょう。あるいは、強制わいせつには当たらないとしても、挨拶のレベルを超えた行為がされたため、家族が被害届を出し、それが事件になったということも考えられます。
4 数年前の事件が明らかになることも
今回、男性が容疑をかけられているのは、2年前の電車での出来事です。なぜ今になって、2年前女児にキスをした容疑者として、男性が浮上したのでしょうか。
男性は、逮捕の20日ほど前に、別事件でも逮捕されています。普通逮捕されれば、警察署は、逮捕者の身上経歴や、前科などを調べます。その際、過去に容疑の浮上した事件の記録が出てくることがあります。
まさに本件では、別件について行われた調査の流れで、男性に過去の容疑が浮上した可能性が高いでしょう。たとえば、キスで付着したDNAの情報が登録され、別件で新たに調べられた男性のDNAと一致した、などが考えられます。
5 弁護方針
男性は、2年前のキスの事件を否認しているとのことです。弁護人は、まず、どの点を、どのように否認をしているのか、しっかりと男性と話し、アドバイスをするため、男性に会いに行きます。そして、一緒に刑事弁護の方針を立てていくことになります。
例えば「自分はやっていない」という趣旨の否認であれば、どうして誤解されて逮捕されているのかを、一緒に考えていく必要があるでしょう。人違いの可能性もあるわけです。
ただ、客観的な証拠もあって逮捕されているのであれば、暴行罪を否定し続けることが難しい可能性もあります。適宜どのような態度を取るのが良いのかアドバイスをしながら、男性の早期釈放を目指します。
男性が否認を続けることを選ぶのであれば、弁護人は、男性と一緒に犯罪の成否を争います。逆に男性が罪を認めるのであれば、被害者と示談の可能性はないか検討します。本件であれば、女児のご家族の方と示談をし、謝罪金を受け取って頂いて事件を許してもらえれば、不起訴になる可能性も出てきます。
6 何気ないスキンシップがトラブルになってしまった際にはご相談下さい
今回は、事件で問題になっているキスが、挨拶の意味をもっていたとしても、それが、暴行罪などの罪に問われる可能性を解説しました。
こちらとしては何気なくしただけの行為が、相手にはショッキングだったということはあります。見ず知らずの人、十分な信頼関係を気付いていない相手に挨拶やスキンシップでキスやハグをしたことでトラブルになる可能性は、職場や学校、近所などにも存在するでしょう。
そうしたトラブルが起き悩まれている方は、まず、刑事リスクなども含めた総合的な見通しを、弁護士に相談下さい。
執筆者情報
原田 大士Daishi Harada
弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士