窃盗事件において、示談成立前ながら不起訴処分となった事案
1.事案の概要
本件は、全国チェーンの量販店で数千円相当の衣服を盗んでしまったという、いわゆる万引きの事案です。窃盗罪で現行犯逮捕され、勾留までされていました。
勾留後、ご家族からの依頼を受けて弁護人として就任しました。
2.窃盗罪における基本的な弁護方針
窃盗罪は被害者がいる犯罪であるため、被害者との間における示談の成否が重要となります。被害額や前科前歴の有無次にもよりますが、示談の内容次第では十分に不起訴処分を狙うことができます。
そのため、窃盗罪においては、まずは被害者との示談成立を目指すことが基本的な弁護方針となります。
ただし、万引き事案のように被害者が店舗(会社)の場合、会社の方針として示談には応じないとしているところも少なくありません。また、本件のように勾留されている事件においては、勾留期間中に起訴か不起訴かの処分が決定するため、勾留期間中に示談を成立させる必要があります。
そのため、少しでも良い内容での示談を目指しつつ、期間内に話をまとめるという交渉が重要となってきます。
3.本件での示談交渉
本件でも、被害店舗は当初、示談には応じられないという姿勢でした。そこで、被疑者本人の反省の態度を伝えた上で、示談の際には今後は店舗には一切近寄らないといったことも約束できると、被害店舗側にも示談の意義があることを説明し、理解を求めました。
その結果、慰謝料の支払い、今後は系列の店舗には一切近寄らないことを条件に、被害者として刑事処分を求めず、民事においても損害賠償をしないことを約するという、理想的な内容の示談が締結できることができました。
このように、一般的には難しいとされる店舗(会社)相手の示談であっても、弁護士が粘り強く交渉を行うことで、示談を成立させられることもあります。
4.検察官との交渉
ここで、示談が成立見込みとなったものの、一つ問題が残りました。それは、示談書の取交しにあたって、被害店舗において対応に時間を要するということです。被害店舗としても、通常の業務があるなかで対応していただいているため、これは仕方のないことです。
ただ、検察官へ示談の成立を報告するには、基本的に取り交わした示談書が必要となります。いくら「近日中に示談成立予定です」と伝えても、評価してくれないこともあります。
そこで、本件では示談の成立が確実であることを証するため、取交し予定の示談書案、被疑者から被害店舗に支払われる慰謝料を弁護士が預かっていることを示す預金口座の履歴、被害店舗の担当の方とのやり取りのメール等を資料として検察官へ示し、間違いなく示談が成立することを説明し強く説得を試みました。
その結果、検察官としても、示談が確実に成立することを前提として処分を検討してくれ、結果として不起訴処分となりました。
5.不起訴処分に向けた迅速かつ適切な弁護活動の必要性
以上のように、本件では被害者相手の粘り強い交渉と、検察官への説得により、不起訴処分で終えることができました。このように、窃盗で勾留されている事件では、被害者への対応のみならず、検察官への対応も重要になることがあります。
勾留されている事件では国選弁護人を付けてもらうこともできますが、国選弁護人がどこまで積極的に対応してくれるかは分かりません。
そのため、少しでも軽い処分で終えたいという場合には、私選弁護人を選任する意義があるといえるでしょう。

執筆者情報
越田 洋介Yosuke Koshida
弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士

