電車内での痴漢行為で、懲役4年の実刑判決との報道!?

1 報道の概要

5月30日、不同意性交等罪に問われていた無職の男に対し、東京地裁が、懲役4年の実刑判決を下した。公訴事実は、昨年9月、私鉄の電車内でストレス解消などを理由に通学中の女子高生(当時15歳)のお尻を触り、さらに下着の中に手を入れて性器に手指を挿入したというものである。

検察は懲役5年を求刑していたところ、裁判所は、男が罪を認めていること、前科がないこと、被害者と刑事和解が成立していることを理由に、前記判決としました。

 

2 初犯の痴漢行為でも実刑判決

本件で注目すべきは、初犯の痴漢事件、しかも和解が成立していたにもかかわらず、実刑判決となった点です。なぜなら、これまでは、本件のような痴漢事件の場合、認め・初犯・示談成立という情状があれば、執行猶予判決となることが大半であったためです。

つまり、これまでの傾向と比較すると、本件の判決内容は大分厳しいものとみることができます。

もっとも、本件における和解の内容までは明らかでない。被害者が「罪を許す」(「宥恕」という)ことまでは認めていない場合など、和解の内容として十全でなかった可能性もあります。

 

3 これまでの痴漢事件の扱い

本件犯行は、社会一般では「痴漢」と認識されている行為です。

昨年7月の刑法改正以前は、このような痴漢行為は、各都道府県が定める「迷惑行為防止条例」か「強制わいせつ罪(現不同意わいせつ罪)」が適用され、処罰されていました。両者の適用は、基本的には行為の態様で区別されていたところ、本件のような性器内に手指を挿入する行為があった事件の場合、強制わいせつ罪で起訴されていたと考えられます。

それでも、本件同様の情状であれば、執行猶予判決となっていた可能性が高いです。

 

4 刑法改正後の痴漢事件の扱い

昨年7月に刑法が一部改正され、強制性交等罪が不同意性交等罪となり、罪が成立する場合も拡張された。性器内に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為が「性交等」に含まれることになった点が、大きな改正点の一つだ。

これにより、本件のような性器内に手指を挿入する痴漢行為も「性交等」とみなされ、不同意性交等罪が成立することになった

 

5 不同意性交等罪の特徴

不同意性交等罪の特徴の一つは、法定刑が「5年以上の有期拘禁刑(現在は懲役刑)」と定められていることです。

法律の規定上、執行猶予を付することができる上限が「懲役3年」までであるため、執行猶予を獲得するためには酌量減軽によって3年以下まで減軽される必要があります。

「5年」から「3年」以下まで減軽されなければならないため、執行猶予を得ることが容易でないことは明らかだ。端的にいえば、実刑となる可能性が高い罪といえます。

 

6 今後の弁護活動

このように、刑法改正により、痴漢事件であってもその行為内容によっては非常に厳しく処罰される可能性がでてきました。そのため、不起訴や執行猶予判決などを獲得するためには、これまで以上に弁護活動が重要となってきます。

宥恕を含まない被害弁償のみの和解などでは、起訴されて実刑となる可能性が高いと考えておくべきです。

早期から公判を見据えた対応を講じ、和解するにあたっても宥恕を含めた内容とするなど、的確な弁護活動を展開する必要があります。

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執筆者情報

越田 洋介Yosuke Koshida

弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士