大学生が盗撮で正式裁判へ
略式裁判で罰金刑となる場合と正式裁判で懲役刑を言い渡される場合の違いを解説します
1 報道の概要
報道によると、22歳の大学生は、京都市内の自宅のトイレや洗面所などに小型カメラを仕掛け、知人女性を盗撮した罪、及びサークルの合宿で訪れた岐阜県内の貸別荘のトイレや浴場の洗面台にも隠しカメラを設置し、女性を盗撮した罪で地方裁判所に起訴され、先日の裁判では、男は起訴内容を認めたとのことです。
このコラムでは、一般的に盗撮事件の処理で多い略式裁判と、この事件のような正式裁判の違い、振り分けについて解説します。
2 略式裁判と正式裁判
略式裁判は、傍聴人がいるドラマで見るような法廷で行われる裁判(正式裁判)ではなく、簡易裁判所で書類のみで行われる簡単な裁判です。
この略式裁判では被告人の出廷は不要です。言い渡せる刑罰は、100万円以下の罰金又は科料に限定されます。
正式裁判ではなく略式裁判で終わるためには、いくつか要件があります。
1つ目は、検察官が略式裁判にする請求をすることです。
2つ目は、被告人が略式裁判にする同意をしていることです。略式裁判は軽微な反面、被告人が意見を述べる機会を与えられないなど、手続保障が十分になされていませんので、「略式請書」という同意書がなければ略式裁判をすることができません。
3つ目は、(法律には明確に要件として記載されていませんが)案件自体が比較的軽微で事案が明白だということです。当然罰金刑を言い渡せる犯罪でなければいけませんし、複雑なものや悪質なものは、簡易裁判所の裁判官が略式裁判にせず通常の裁判で審理することも許されています。当事務所も、過去一件だけ、略式請求されたものの、簡易裁判所の裁判官によって正式裁判にされたことがありました(しかしながら、結果としては罰金刑で終わりました。)。
なお、略式裁判の結果言い渡された罰金刑も、当然前科になります。
しかしながら、正式裁判の負担がないため、容疑者側やご家族の負担は少なく、また傍聴人もいないため、そこから誰かに知られるということもありません。
3 通常の初犯盗撮事件であれば略式裁判となることが多いが・・・
一般論としては、初犯の盗撮事件であれば、略式裁判となることが多いです。
しかしながら、①前科がある場合、②否認している場合、③立件されている件の被害者数が3名を超える場合、④撮影データを流通させたり広めたりしているなど、悪質と判断される場合は、初犯であっても正式裁判が選択されることがあります。
今回は、否認していないでしょうから、前科があったか、被害者数が多いか、または撮影した写真等をSNSで頒布したり、ネットで売却などしたりして、捜査機関から悪質だと判断された可能性があります。
4 まとめ
報道された事件については、何らかの要素で悪質と判断され、略式裁判ではなく、正式裁判になったものと思われます。
もし類似の行動を取ってしまった場合は、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。
執筆者情報
杉浦 智彦Tomohiko Sugiura
弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士