痴漢を疑われて駅務室から飛び降り!?
駅務室に入ったら逮捕確定なの?
社会的地位を失うの?
弁護士がわかりやすく解説します
1 報道の概要
2022年5月25日の朝、神奈川県の京急金沢文庫駅で、60代の男性が痴漢を疑われ、駅の事務室で話を聞かれた際、駅事務所から逃走を図り、事務所の窓からおよそ8メートル下のホームに転落し、死亡しました。
痴漢を疑われた際にどうしたほうがいいかについては、さまざまな噂があります。「逃げたほうがまし」「駅務室に入ったら逮捕確定」など、真偽が定かではない情報がよく流れ、私もよく質問されます。
痴漢事件をよく取り扱う弁護士が、これらの噂についてわかりやすく解説します。
2 被害者の供述だけで有罪認定されることもある
まず前提としてお伝えしなければならないのは、指紋やDNAなどの決定的な証拠がなく、被害者の証言しかない場合であっても痴漢で有罪とされた裁判例があるという事実です。
そもそも被害者は、示談による金銭目的や他の怨恨などが疑われない限り、記憶のとおりに被害申告をしていると考えられています。
特に性犯罪の被害者は、セカンドレイプの問題もあって心理的な負担も強いことから、より信用性が高い証言であると言われています。
実際に弁護士が無罪を争う事例のときも、被害者の動機が主張できる場合は別にして、「犯人は別にいる」「過剰主張だった」という争い方をすることが多いです。
そのような実務慣行がある中で、痴漢を疑われた場合、「逃げないと無実を争うのが難しい」というのは本当のことだといえます。
3 逃げるのは社会的地位を喪失する最悪の手段
しかしながら、逃げたとしても、駅だと監視カメラもあるため、通常は犯人が特定されます。
そして、逃走している犯人が特定された場合、ほぼ間違いなく逮捕されます。
逮捕されますと、その情報が全件報道機関に情報提供されますので、報道される可能性が高まります。
報道されると、たとえ否認をしていたとしても「あいつは痴漢犯人だ」と言われ、社会的な地位が低下してしまいます。しかも、日本の報道は、最終的に無罪になってもほとんど報道しないですから、名誉回復の手段も少ない状況になります。
以上の観点から考えると、逃げるということは、社会的地位を喪失する可能性の高い最悪の手段であるということができます。
「逃げたほうがマシ」ということはないのです。
4 逮捕されない案件は報道されることがほとんどない
最近の都心の痴漢事件の傾向になりますが、逃走しない案件は逮捕されないことがほとんどです。
よく「駅務室まで連れて行かれたら自動的に逮捕だ」という噂もありますが、駅務室から管轄警察署に行くものの、その日中に家に帰ることができている事例を多数経験しております。
また、逮捕されなければ、有名人等でない限り報道されることはありません。
以上より、社会的な地位を守るという観点で考えると、逃げるべきではありません。
5 死んでしまうと、無実であることも争えない
今回の事件は、容疑者が死んでしまっています。
容疑者が死んだ場合は、事件処理としては「被疑者死亡」という形で終了し、無実を争う手段を失います。
もし無実を争いたい場合は、(当然混乱するでしょうが)逃げずに、早めに弁護士に依頼をしていただくことをおすすめします。
執筆者情報
杉浦 智彦Tomohiko Sugiura
弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士