痴漢が見つかったときに「弁護士が来るまで話さない」は有効?
弁護士が解説します

1 報道の概要

報道によると、2021年6月23日午後4時頃、倉吉市内のコンビニに侵入し、客として居合わせた女性(50代)のスカートの中に手を差し入れて、太ももの内側を触った疑いがあるとして、男性が逮捕されました。

被害女性が「痴漢です」と声を上げ、店員が追いかけましたが、男は逃走。その後、警察が防犯カメラ映像などを調べたところ、男の犯行が明らかになったとして29日逮捕したということです。

調べに対し容疑者は「弁護士が来るまでは話したくありません」と話しているということです。

 

2 黙秘権とは?

もし容疑者として疑われたとき、捜査機関に対して、言いたくないことを言わなくてもいい権利が認められています。これが「黙秘権」といわれるものです。

黙秘権は、憲法や刑事訴訟法で定められた権利のひとつです。

 

3  黙秘することの意義・メリット

黙秘権を使ったとしても、そのことを理由として不利に扱われることはありません。たとえば、「やっているから黙っているのだ」という事実認定は許されませんし、黙っていることのみで刑罰を重くすることも許されません。

ただし、自白や反省をしている事案は、それを理由として刑罰が下がるため、相対的に否認したり黙秘したりしている案件の刑罰が重くなるということは実際にあります。

黙秘権を使う最大のメリットは、(客観的な証拠が少ない場合に)被疑者の供述が、不利な証拠として使われないようにするためです。何かしら捜査機関に話をすれば、それが「供述調書」という証拠にされます。人の記憶は想像以上に曖昧ですので、知らない間に自分に不利な証拠を作っているというのはよくあります。

そのため、本当にやっていない場合、犯罪の要素それぞれに関連する客観的な証拠が出るわけがないという場合は、間違いなく黙秘権を行使するべきだといえます。

よく黙秘権が使われて不起訴になる事例として、薬物事犯があります。薬物は、仮に尿から薬物反応が出たとしても、自ら摂取したことの証拠(注射痕など)がない場合は、無罪となる可能性があります。弁護士からあり得るストーリーを検察官に説明しつつ、容疑者には黙秘をしてもらい、その結果、不起訴になることもあります(当然、そのストーリーが不合理(キムチを食べたら覚醒剤反応が出たなど)であったりすれば、尿の覚醒剤反応だけで有罪認定をされることもあります。)。

 

4 争えない場合の黙秘のメリットは?

一方で、監視カメラに犯行時の映像がばっちり残っている可能性がある場合、客観的な証拠が多数ある可能性がある場合では、黙秘権を使うかどうかは悩ましい問題です。

さきほど述べたように、客観的証拠が薄いのであれば、黙っていれば不起訴になることもあるのですが、客観的証拠が揃っているなら、それだけで有罪とすることができます

明らかに有罪となるような客観的証拠が揃っているのなら、黙秘をせず、素直に話していくべきという事案も多いように思います。

そのため、最終的な刑罰だけを考えれば、どんな証拠がありそうかというのを、弁護士と協議をし、そこから捜査機関に素直に話すかを決めるというのも、一つの手段だといえます。

しかしながら、先に述べた黙秘権のメリットの話は、すべて「処罰されるか」という話に尽きます。実際は、より重要な要素として、「逮捕されたまま、長期の身柄拘束を受け入れるか」というところがあり、ここが黙秘するかどうかの分岐点になるように思います。

一般論として、否認事件はほぼ間違いなく長期の身柄拘束(勾留)がなされます。一方で、痴漢や盗撮等の比較的軽微な事案では、最近は、初犯の自白事件であれば、勾留されず釈放される事例も多くなってきました。

無理な黙秘までして、勾留され、さらには起訴されて正式な裁判を受けなければならないというのは、負担がかなり重いように思います。仕事を失ったり社会的な地位を失うこともあるでしょう。

早い段階で警察に対して素直に話をしつつ、弁護士を選任して早期の身柄釈放を求めていくというのが合理的な選択となることも多いようには思います。

 

5 「弁護士が来るまで話さない」というのは目的や事情次第!

この報道の事例は、どういう監視カメラの画像かはわかりません。そのため、この事例で黙秘権を行使すべきなのかについては判断できないところです。

たとえば、実際に犯行をしていて、監視カメラにも写っていそうであれば、私ならば自白をして、同時並行で弁護士を選任してもらって早期に釈放してもらうように動くだろうと思います。

一方で、絶対にやっていない、監視カメラに写りようがないということであれば、私ならば絶対に自白をせず、一貫して(一見関係なさそうなことであっても)すべて黙秘するだろうと思います。

このように、弁護士目線で回答すると、痴漢が見つかった際の適切な対応は、目的や事情によって異なるといえるでしょう。

 

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執筆者情報

杉浦 智彦Tomohiko Sugiura

弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士