判例 - 求人票記載の労働条件が労働契約の内容と認められた事例

判例 求人票記載の労働条件が労働契約の内容と認められた事例

「京都地判平成29年3月30日労働判例1164号44頁」

第1 事案の概要

 Yは、障がい児童を対象とする児童デイサービスを営む会社である。

 Yは、「正社員、契約期間の定めなし、定年制なし」とする求人票をハローワークに提出し、当該求人票を閲覧したXは、Yの面接を受けた。面接の際、Xは、定年制の有無を質問したが、Y代表者は未定であると回答し、労働契約の期間の定めの有無や、労働契約の始期については、特にやり取りがなかった。この面接後、YはXに採用の通知をした。

 Xは平成26年3月1日に勤務を開始したが、Y代表者は、Xに対し、「1年間の有期雇用、65歳の定年制とする」旨の労働条件通知書を提示して説明した。

 Xは、すでに他を退職してYに就業した以上、これを拒否すると仕事が完全になくなり収入が絶たれると考え、特に内容に意を払わず、その裏面に署名押印した。その後、Xは、27年1月になって、有期労働契約であることや定年制とされていることを認識した。

 Yは、平成27年2月末日限りでXとYとの本件労働契約が終了したものとして取り扱った。

 Xは、Yに対し、雇用契約上の地位の確認と未払賃金の支払等を求めた。

 

第2 結論

 本件は、求人票記載の労働条件を内容とする労働契約が成立しているとしたうえで、採用後にXが署名した労働条件通知書記載の労働条件に変更可能かどうかを、Xの自由な意思に基づく同意があったかどうかを慎重に判断して、否定した事例である。

 

第3 裁判所の判断

(1)本判決は、「求人票は、求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は、当然に求人票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である」とした。

 そして、本件での採用過程について事実認定をし、本件の労働契約は、求人票記載の「契約期間の定めなし、定年制なし」として成立したと認めた。

(2)Y代表者が平成26年3月1日にXに対して労働条件通知書を提示し、その裏面にXが署名押印したことを新契約の成立と主張したことについては、本件労働契約の変更を主張する趣旨を含むと解されるとしたうえで、「当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきであり、その同意の有無については、当該行為を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である(山梨県民信用組合事件(最二小判平28.2.19労判1136号6頁)とした。

(3)そして、「期間の定め及び定年制のない労働契約を、1年の有期契約で、65歳を定年とする労働契約に変更することには、Xの不利益が重大であると認められる」と指摘し、本件の事情からは、「本件労働条件通知書にXが署名押印した行為は、その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないから、それによる労働条件の変更についてXの同意があったと認めることはできない」として、「XとYとの労働契約は、期間の定め及び定年制のないものであると認められ」、「本件労働契約は現在もなお継続している」とした。

 

(平成30年11月28日発行 文責:下田和宏)

 

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