当事務所の扱った無罪事件です

当事務所の扱った無罪事件です

日本の刑事裁判では、起訴された以上、99.9%有罪となってしまいます。無罪が認められるのは、非常にまれなケースです。
この無罪事件の概要および、当事務所の対応をご説明いたします。
 

当初は通常の過失致死事件と思われてた

本件は、2009年に横浜市で発生した、ひき逃げ事件です。夜間車を運転していて、自転車で走行していた高校生をはねた事件です。被害者は20日後に死亡しました。一見すると単純な過失致死事件に思えます。

ところが本件では、事件を起こした本人は、事件の前後の 記憶が全くないというのです。これは、通常はあり得ないことです。

被告人はI型糖尿病に罹患していました。これは、生活習慣病であるいわゆる糖尿病とは違い、若いころ から病気としてなってしまう糖尿病です。血糖値を下げるためにインシュリンを注射する必要がありますが、 それによって低血糖状態となり、意識を失ってしまう場合が起こるわけです。

依頼者は、意識がない中の事故だとしても、自分が血糖値の管理をしっかりしてこなかった点に過失がある と認めていました。自動車運転過失致死罪として、事故を起こして人を死なせてしまったことについては、 罪を認める旨、弁護士に話していたのです。

 

現場から逃げた点だけが起訴さた

ところが検察は、高校生をはねた点については、起訴してきませんでした。何故起訴してこなかったのかは、検察庁は教えてくれませんので推測するしかありません。

恐らくは、被害者が、夜間に車道を自転車で逆走したうえ、駐車中のトラックをよけるために、道路中央まで はみ出していたことから、通常の運転をしていても事故は避けられなかったということで、過失責任を問えな いと判断されたものと思われます。依頼者が、高校生の救助などせずに、そのまま走り去ったことについて、救護義務違反等の道交法違反で 起訴されたわけです。

これに対して依頼者は、自分が済まないことをしたのは確かだが、事故を知っていながらそこから逃げたと言われるのならば、受け入れることができないと考えました。ここから、無罪を勝ち取るための、3年に及ぶ 法廷活動が始まりました。

 

責任能力が認められるのか

男性はⅠ型糖尿病に罹患しており、車の運転中に低血糖症で意識障害となっていた可能性は認められました。そして、一貫して、事故の前後の記憶が無い旨述べていたわけです。

この点について検察側は「意識障害があったとは思えない。たとえ意識障害があったとしても、事故前後、 赤信号で停車するなど正常に運転できており、人をはねた認識はあった。責任能力も認められる」と主張 して争ってきたのです。

弁護側は、歩道すれすれを「這うように」(目撃者の証言)走るなど、被告の運転が非常に奇異であった ことが複数の目撃者に認められていること、事故後にフロントガラスが大破した状態で、全くスピードを 上げることもなく、かつ信号などを順守しながら、それまでと同じように現場から走り去っていること、 逮捕時に飲酒検査をされ、ろれつが回らない、一人で立っていられない等の状況だったことを警察官が証言 していることなどから、意識障害により自分の行為の意味を認識することができず、責任能力が無い旨主張 しました。

以上を証明するため、弁護人として3人の医者と面会しました。糖尿病の専門医は、責任能力を否定し、 裁判で証言しても良いといってくれましたが、検察側は採用に異議を述べ、違う鑑定医を裁判所に紹介した わけです。弁護側としては、お医者様との面会をつうじて、本件ではどの鑑定医が採用されても、責任能力 が認められないであろうことには、自信がありました。

 

検察側の鑑定で責任能力が否定

ところが、検察側の鑑定医も、本件は責任能力がないという鑑定を下してくれました。このような被告人の状態は、医学的に分別朦朧状態といわれており、運転などの日常的な行為は一応行えるが、その過程で 奇異な行為が伴うことと、そのときの記憶が欠落していることが特徴で、自らの行為の意味を正しく理解 することができないので、責任能力がみとめられないというものでした。裁判所もその鑑定結果を採用して、今回の無罪判決に至ったわけです。

 

無罪判決と被告人の反省

判決を受け依頼者は、「人を轢いたことを知りながら逃げたわけではないことを分かって貰ったことは 嬉しいが、自分の低血糖に対する考えが甘かったために人の命を奪ってしまったことは大変済まなく 思っている。もう2度と車の運転はしないことを誓う。」と話しておりました。

無罪になったとはいえ、非常に重い内容を含んだ事件でした。